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〜明希side〜
「えっ、うちの院に?」
「うん……ダメかな?」
別荘から帰ってきてしばらくして、明希は千秋と2人だけで会った。
そしてそこで、まつみや院に行きたいという話を出した。
「どうしてうちに来たいの?」
「そこにいる子たちに、会いたいから。」
「なんで?養子に取る気があるの?」
千秋は真剣な顔で、珍しくはっきりした物言いだった。
「養子を取る気がないならうちには来ないで欲しい。うちに来る人は皆、養子を取るつもりで来てる。もちろん子どもたちと会ってみて、なかなか合わなくて取らずに来なくなる人もいるけど、元々はうちで養子を取る気でいる。そんな中、養子を取る気のない人に来られても迷惑だよ。子どもたちが可哀想。」
「もちろん、養子を取る気があるよ。でも、勉強して、いろんな話を聞いて、俺にできるのか不安なところもたくさんある。だから、子どもたちに会ってみたいって思った。それじゃ、不十分かな……?養子を取ることを完璧に決めてからじゃないと、会わない方がいい?」
明希も別荘にいた2ヶ月、真剣に考えて悩んだ。
明希は『家族になる』ということに自信が無い。自分は父親と上手く関係を築けていなかったし、翔也がいなければずっとギクシャクしたままだっただろう。
そんな自分が、自分が産んでいない子の『母』になる。
そんなことができるのか、菜々子のようにうまく関係を築けるか。
不安で、心配で、自信が無い。
でも、明希は恋を近くで見てきた。
家族がいないというのはとても寂しいことだ。たとえ血の繋がりがなくても、子どもと信頼関係を築けるのなら、家族になれるのなら、明希はその子の『母』でありたい。
愛を惜しみなく与えて、味方でいてあげられる、そんな存在になりたい。
「じゃあ、どうして養子をとりたいの?」
「施設には、たくさん子どもがいるでしょ?その中には、きっといろんな子がいるよね……俺はその中の誰かの唯一になってあげたい……俺のことをお母さんだと思ってくれなくてもいいんだ。それでも俺は、その子のお母さんでありたい。その子が困った時に帰ってこれる場所を作りたい……不妊なことが考えるきっかけになったから、不妊じゃなかったら養子を取らなかったかもしれない……でも、気持ちは軽くない。養子を取ることを決めたら、俺はもう、器官をとるか、妊娠機能を無くす。」
明希がそう言うと、千秋は驚いた顔をして、目をぱちぱちさせた。
「翔也さんのことは大好きだから、セックスを絶対しないなんて言えないでしょ?でも、避妊してても、出産できる確率が低くても、絶対子どもができないなんて保証はない。養子の子に不安な思いとか、辛い思いさせたくないんだ。だったら、俺は自分が産む子どもはいらないよ。その子が俺の子になるんだもん。」
「……そっか。明希がそこまで覚悟してるんだったら、ぜひうちにおいで。難しい子もたくさんいるけど……だんだん仲良くなれると思うよ。」
「……うん。ありがとう。」
「翔也さんには相談したんだよね?」
「うん。養子をとりたいって話はしてる。千秋のとこにいくのは、許可得てからにしようと思ってまだ話してないけど……」
翔也ともよく話し合った。
翔也は明希の気持ちを尊重したいが、心配だと最初は言っていた。
けれど相談を重ねて、会話を重ねるうちに、2人の意思は固まった。
翔也も明希と同様に、強い気持ちを持って養子を迎えたいと思ってくれている。
「そうだな……最初は明希だけの方がいいかもなぁ。翔也さんはある程度背も体格もあるし、少し怖がる子もいるかもしれないし……顔を知ってる子もいるかもしれないからね。念の為。」
「うん、わかった。」
「子どもたちが慣れてきたら、翔也さんも連れてきて、一緒に会ってみたらいいよ。」
「うん。」
千秋と相談して日にちを決めて、家に帰ってから翔也にもその話をした。
じっくり子どもたちに会ってきて、どんな子たちだったか教えて欲しいと言われた。
*
「うわぁ、大きいね。」
「そうかな?まあ、誰かが常駐してるから、スタッフの部屋もあるし……そのせいかも。」
まつみや院は綺麗な外観と可愛らしい看板の大きな施設だった。
「今日は子どもたちに話しかけられなかったら、子どもたちとは話さないで。もし話しかけてくる子がいたら、それは無視しないであげてね。」
「うん、わかった。でも、話しちゃっていいの?」
「うん。話しかけてくる子はそういないと思うけど……たまにあるんだ、初回から話しかけること。そういうのって珍しいから、機会を潰さないであげたいんだ。」
「なるほどね。……ちょっと緊張してきたかも。」
「緊張してると子どもたちに伝わるから、できるだけリラックスして。赤ちゃんもいるけど……どの部屋から見る?」
「赤ちゃんかぁ……うん、でも1番小さな子のお部屋から見させてもらおうかな。」
「……赤ちゃんを見るのは、もう平気?」
「うん。もう辛くない。それに、その子たちの中に俺の子になる子がいるかもしれないじゃない?」
「ふふ、そうだね。」
千秋に案内されて、まだ小さな赤ん坊のいる部屋から見て回る。
赤ちゃんを見ても辛い気持ちにはならなかった。
可愛いなぁという気持ちと、この子たちも事情があって1人になってしまったんだと胸が痛む気持ちがあった。
「ここは2歳と3歳。もうすぐ4歳になる子もいるかな。」
「ちあき!」
「ちあきだー!」
「……だぁれ?」
もうすっかり達者に喋る子どもたちが千秋に寄ってくる。
「お客さんだよ。こんにちはして?」
「「こんにちはー!!」」
「こんにちは。」
にっこり笑って挨拶すると、きゃーっと喜ぶ子どもたち。
部屋の隅からこちらをそっと窺っている子もいた。
「ちあきー、かえでこないのー?」
「楓先生は今日はお兄さん達のお部屋にいるよ。」
「えー、かえでにあいたいー。」
「今日は我慢する日だよ。明日まで待つ。できる?」
「うぅー、やだぁ……」
駄々をこねる1人の子ども。
千秋の足にベッタリくっついている。
「やだやだぁ、かえでにあいたいー!」
どうやら楓のことが好きらしい。
「ダメだよ。楓先生には毎日は会えない。お約束だよね?」
「……きょうだけ。あしたがまんする!きょうあいたい!!」
「どうして今日会いたいの?」
あまりに食い下がる子どもに、千秋は目線を合わせてしゃがんだ。
「わたしたいもの、あるから……きょうじゃなきゃだめなのー!」
「じゃあ、先生から渡しておくよ。それじゃダメ?」
「……ちあきがわたしてくれるの?」
「うん、もちろん。先生に任せてくれる?」
「うぅぅ……でもおはなし、することもあるし……」
迷っている子どもに、千秋はじっと待っている。
手紙を書いたらいいんじゃないかとか、そういう口出しをしたくなるが、千秋は何も言わずに待っていた。
「……あっ!」
「ん?どうしたの?」
「ちあき!おてがみかく!!」
「お手紙?」
「うん!かえでにおてがみかくから、ちあきまってて!」
そう言うと子どもはパタパタと走っていって、テーブルのところでなにか書き始めた。
「……何も言わずに待ってたね。どうして?」
「うん?あぁ、あの子はね、今我慢を覚えてるところなんだ。楓のことをすごく気に入ってるんだけど……毎日会うのは無理でしょ?その我慢を覚えてる。自分なりに、できないことをどうやって妥協するか、あの子は考えられるから、僕は待ってるんだよ。」
子どもをよく見て、その子に合わせていろいろ変えているようだ。
だからこそ、子どもから信頼されている。
楓に渡したい大事なものを千秋に預けてもいいと思われている。
(千秋は、ここのお母さんなんだ。)
明希はそう思った。
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