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〜明希side〜
「ここは4歳以上、小学校入学前までの子たちがいる。悲しいけど、この辺りまでくると少しずつ養子縁組の話が少なくなるんだ……小学校に入るとさらに減って、それより大きくなるとほとんど来なくなる。」
「……そうなんだ。」
「うん。まあ、この院で小さな頃から育った子だと、大きくなっても縁組の話が来るんだけど……ある程度大きくなってから保護された子は、それぞれ事情を抱えてるから……育てる自信が無くなっちゃうみたい。」
確かに先程までの部屋とは雰囲気が少し違う。
仲良く遊んでいる子たちがいる一方、部屋の隅で座り込んでいる子や、1人で本を読んでいる子、明希が顔を見せた瞬間に隠れた子もいた。
「小学生より大きな子は今は学校に行ってるから、今日はここの子たちまでかな。」
「うん、ありがとう。」
「どうする?今までの部屋に戻っても構わないよ。」
きっと、この部屋に長居する人は少ないのだろう。
挨拶もされないし、独特の雰囲気がある。
けれど明希は、もう少しここにいたいと思った。
「もう少し、ここの子たちを見ててもいい?」
「うん、もちろんだよ。」
目が合ってにこりと微笑むと、恥ずかしそうにはにかむ子。
すぐに目を逸らしてしまう子。
じっとこちらを観察して何もしない子。
べっと舌を出す子。
怯えたようにこちらを窺う子。
(いろんな子がいるなぁ。)
少し見ていただけでも、それぞれ違いを感じる。
けれど皆、こちらに興味を持ってくれているようには見えた。
それがマイナスの感情でもだ。
そんな中、1人だけいた。
こちらに興味を示さない、なにも感じられない子。
「……あの子は、2ヶ月前にここに来た子なんだ。」
明希があまりにじっと見ていたからか、千秋がそう声をかけてくれた。
「あの子に名前はないの。」
「親がいないとか……?」
「ううん、親はいたみたいだし、死んでもない。でもあの子をおいて出ていったみたい。……養育放棄、ネグレクトってやつだね。」
「そうなんだ……それじゃ、名前も付けて貰えなかったの?」
「そうじゃないよ……戸籍がきちんとある子だし……」
戸籍があるということは名前もあったはずだ。
千秋たちはそれをきちんと知っているはずだった。
「……あの子が自分で言ったの。俺の名前はないって。」
心配そうに、悲しそうにそう言う千秋は、その子をじっと見ている。
「最近やっと、僕とはお話してくれるようになったんだけど……楓までで限界で、それより大きな体格の男の人は睨みつけて無視する。女の人はもっとダメで……ご飯もなかなか食べてくれなくて。すごく心配な子なの。僕たちはあの子のことは星くんって呼んでる。」
「星くん?」
「うん。さすがにずっと名前なしでは生活できないし……引き取り手ができた時に、名前をつけてあげて欲しいと思ってるから、仮名になるけどね。」
「それはあの子は納得したの?」
「うん。僕が話し合って決めたよ。あの子星が好きなんだって。だから星くん。」
窓の外をじっと見ているその子が、初めて会った昴流だった。
*
「あーっ、あきだ!」
「あきー!」
「あきあそぼーっ!」
明希はほとんど毎日、時間を作ってまつみや院に通った。
子どもたちに顔と名前を覚えられて、ふれあい行事にも参加するようになった頃。
未就学児全員でのふれあい行事があった。
他の養父母候補も来ていて、子どもたちはそれぞれお気に入りらしい大人の前に行って遊んでいる。
千秋曰く、引き取られるかどうかももちろんだが、大人への警戒心を解くことが重要なのだという。
愛着を築くのは施設の職員たちがやる。
けれど、たくさんの大人とは触れ合えない。だから、多くの大人と触れ合って、その人たちは困ったら助けてくれること、優しい人たちだということを覚えていくのだそうだ。
その中で養父母候補が引き取りたい子どもが見つかれば、その子とは密接な交流をしていくらしい。
明希も遊びたいと声をかけてくれた子どもとは一緒に遊んだ。
元々恋の子どもを相手にしていたこともあり、明希と遊ぶのが楽しいと言ってくれる子どもたちは多かった。
今日もいつも通り遊んで、子どもたちが昼食の時間になったところで、明希も院の一角で食事させてもらうことにした。
食事を終え翔也に連絡を入れて、少し院を歩こうかと部屋を出る。
ふと、中庭に綺麗な花畑があるのが気になって、明希は中庭に出た。
「なにしてんの。」
「わっ?!」
背後から声をかけられて明希は飛び上がった。
(あ……星くん。)
最初に見てから、何度も見かけるもののまだ1度も話せたことがなかった。
「……なにしてんの。」
「あ、お花が綺麗だったから、少し見たくて。」
「……かえれよ。」
「えっ?」
「ここにくんな!!」
「どうしたの?!」
大声を聞いた楓が慌てて中庭に出てきた。
「せんせい、こいつどっかつれてけよ!!ここにはいれるなよっ!!」
「星くん、自分の気持ちはきちんと伝えないとダメだよ?この人は星くんがどうしてここに来て欲しくないのかわからないでしょ?」
「ーーーーッ!やなもんはやだ!つれてけ!!」
「……わかった。大丈夫だよ。誰もとったりしないから、ね?ゆっくり深呼吸して。」
明希に先に中に戻って、と小さな声で言ってくれた楓に頷き、明希は院の中に戻った。
楓はしゃがんで、目線を合わせて何か話している。
(泣いてる、のかな?)
俯き、ゴシゴシと顔を擦る男の子。
きっと、とても大切な場所だったのだろう。
てっきり院が管理しているものだと思っていたが、もしかしたら違うのかもしれない。
(悪いことしたなぁ。)
あんなに怒るなんて、よほど大事だったのだ。
明希は軽率な行動を後悔した。
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