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〜明希side〜
「明希?こんなとこでどうしたの?」
中庭が見えるところで、立ったままでいると千秋に声をかけられた。
「あ、千秋……ごめんね。」
「えっ?」
明希が急に謝ったからか、千秋は驚いて、けれど周りを見回してすぐに理解したようだった。
「こっちこそごめん、言っておけばよかったね。好きなところ見ていいよって言っておいて……ここは僕と楓が作ったんだけど……花畑、星くんがとても気に入ってね?水やりとかお花の世話を彼に任せてたんだ。ここにいるときの星くんはとても楽しそうだから……」
「そっかぁ……自分が育ててる大切なものを、俺に取られると思ったのかな。」
「1度、ここで勝手に花をつんだ人がいたの。それから少し過敏になってて……」
「そうなの?それは怒りたくもなるよねぇ。」
「……怒ってないの?」
「へっ?なんで?俺の配慮が足らなかっただけでしょ?むしろ申し訳ないよ……楓に任せちゃったし。」
楓は男の子をぎゅっと抱きしめて撫でている。
「てっきり院が管理してるものだと思って、勝手に入っちゃったけど……軽率だったよね。」
「……ありがとう。」
「え?!なにが?」
「星くんは、あんまり人を信じられないみたいで……強く当たることもあるし、自分の気持ちを伝えるのも苦手みたいで、怒ってる理由がわかりにくいから、愛想が悪いとか、感じ悪い子だとか思われがちなんだ。」
「うーん……傑に比べたら素直じゃない?それに不器用なだけでしょ?小雪さんみたいなもんよ。」
「ふふっ、ふふふっ……傑は確かに素直じゃないよね。」
「でしょぉ?子どもなんだし、上手く伝えられない部分もきっとあるよ。」
「明希が来てくれてよかったかも。」
「ん?」
ぼそ、と呟かれた言葉が聞こえなくて聞き返す。
けれど千秋はニコニコするだけで何も言わなかった。
*
〜千秋side〜
「星くん。」
「……ちあきせんせい。」
「うん、おはよう。」
「おはよう。」
「これ、星くんにって預かったものなんだけど。」
1人で座っていたところに声をかけ、手紙を渡す。
白い封筒に入ったそれは、明希からのものだった。
「……なに、これ。」
「開けてみて?」
「なんで。」
「大丈夫、変なものじゃないよ。嫌だったら、捨てるから。1度中身を見てみて?」
恐る恐る中身を開けて、手紙を取りだすと、ゆっくり目を通す。
それから、千秋のほうを見て驚いた顔をした。
「これ、なに?」
「この前来た人、覚えてる?」
「……かってに、はなばたけはいったひと。」
「ふふ、そう。その人がね、勝手に入ったことを謝りたかったんだって。でも、星くんに直接会うとまた嫌な思いさせるかもしれないって思って、お手紙にしたみたい。」
今までも、勝手に花畑に入った人はたくさんいた。
その度にこの男の子は怒ったけれど、相手は謝ったことなど1度もない。
「……ふーん。」
少しだけ明希に興味が湧いたようだった。
「どうする?そのお手紙。捨てようか?」
「おれはいらない。……でも、すてないで。」
「うん、わかった。お返事はどうする?」
「…………かく。」
少し悩んで、けれどそう言ってくれた。
千秋は嬉しくて、色々な種類の便箋を持ってきた。
「好きなのどうぞ。」
「あのひと、かえでせんせいとともだちだった。ちあきせんせいもなかいい?」
「よく気がついたね。」
まずそう言って、すごいすごいと褒める。
それから、仲がいいよ、と事実を伝える。
「じゃあ、あのひとのすきなの、わかる?」
(心を開こうとしてる、かも!)
他人に興味を持ってくれた。
それだけで、この男の子にとっては大きな進展だった。
元々気の使える子ではある。だから、相手の好きな事や好きなものを探ろうとする。
しかしその段階にたどり着く前に興味を持ってくれないことの方が多かった。
「お花見たかったって言ってたでしょう?お花は好きだよ。あとは犬とか猫とかも好きかなぁ。甘い食べ物もすきだから、お菓子やドーナツの柄なんかも喜ぶかもね。」
「……おおい。」
「ふふ、星くんが好きなものを使ったらいいよ?」
「……じゃあ、きれいだから、これ。」
四つ葉のクローバーが描かれた、他のよりシンプルな便箋。
それを取って、男の子はていねいに文字を書き始めた。
「できた?」
封筒に入れたところで声をかけると、首を振る。
「まだ。」
男の子はそう言って、部屋を出る。
ついてきて、というように振り返られたので、千秋も後を追った。
その子が真っ直ぐに向かったのは花畑。
「……うん、これがいい。」
そしてひとつの花をつんで、封筒に入れた。
「……できた。」
「うん、責任もって、渡しておくね。」
まだ、笑ってくれることはなかった。
それでも、確かに彼の表情が柔らかくなったのを、千秋ははっきりと見た。
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