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〜明希side〜
「でね、ちあきせんせいが……」
院に行くたびに男の子と話すうち、少しずつ彼から話しかけてくれるようになり、ニコニコしてくれるようになった。
千秋曰く、あまり笑う子ではなかったらしいので嬉しい限りだ。
「星くん、そろそろ明希さん帰る時間だから、バイバイしてー?」
楓が呼びに来た。
大勢いる部屋ではなかなか話せないことに配慮した千秋が、個室を用意してくれていた。
「……もうかえるの。」
「うん、また明日来るからね。」
「……もっといて。」
わがままをあまり言わないこの子の、可愛らしいお願い。
聞いてあげたいけれど、院の食事の時間もあるし、翔也のこともある。
「ごめんね。」
「……どうしたら、もっといられる?みんなと、なかよくする?もっといいこにする?べんきょう、できるようになったら、もっといてくれる?」
こんなに駄々をこねるのは初めてだ。
「なまえ、おしえたらいてくれる……?」
見上げられて、胸がぎゅうっと締め付けられる。
この子はきっと、家族の愛を知らない。
過去の自分と重なった。
母と共に過ごしたかった。
父にずっと愛されていたかった。
「……それは、家族になりたいなった人ができたら教えてあげて?」
「あきがいい……」
「え?」
「あきが、おれのおかあさんになってよ……」
「星くん……」
「おれのはなし、きいてくれるひといなかったもん……あきがいい。あきはちゃんとおれのことみてる。」
「でも、俺のパートナーにも会ったことないでしょ?」
「……え?」
「俺、結婚してるんだよ。」
「……おんなのひと?」
「男の人。」
「……あきにはもう、かぞく、いるんだ。」
「星くん?」
「おれがいなくても、かぞくがいる!!」
そう叫ぶと、男の子は部屋から出ていってしまった。
*
〜昴流side〜
「星くん?!どこいくの?!」
楓の声を無視して走った。
明希と2人だけでよかったのに、邪魔者がいる。
そのことを知って、男の子-昴流は酷くショックを受けた。
昴流の母は、女性で未婚の母だった。
昴流の父は誰かわからず、昴流が小さな頃から母と2人で生活していた。
母は昴流のことを愛してくれていた。
貧しくても、昴流の好きなものを買おうと言ってくれたし、遊びにも連れていってくれた。
それが唐突に変化したのは、昴流が3歳になった頃だ。
母に彼氏ができた。
体格のいい男だった。
母はその人のことばかり話すようになった。
けれど昴流は、母が楽しそうなのだから、いいかもしれないと幼いながらに思った。
それに自分に父親ができるならそれも嬉しかった。
楽しみだった。
しかし母の彼氏は、昴流のことを疎ましく思ったようだった。
昴流は、母は自分を選んでくれると思っていた。
また前のように2人の生活に戻るだけだと。
けれど、現実はそうならなかった。
母は昴流に何もしてくれなくなった。
辛うじて住む場所と食事は与えられたが、菓子パンや弁当だけの味気ないものと、ろくに掃除もされていない部屋。
昴流は母の彼氏を恨んだ。
アイツが来なければ、母は自分のことを愛してくれたはずだった。
父親なんていらなかった。母さえいてくれればよかった。
男なんて嫌いだ。
彼氏を選んだ母も信じられない。
『昴流。』
母が呼んでいた名前が嫌いになった。
自分のことだけを見てくれる人はいないのだと思った。
家族なんてものは、所詮軽薄なものなのだと、昴流は思った。
血の繋がりなど無意味だった。
まして血の繋がりもない人は愛などくれない。
自分は邪魔者でしかない。
愛し合っている2人がいたら、その間に自分は入れない。
昴流はまだ幼かったが、なんとなくそれを理解した。
そしてその理解は根深く残ることになった。
人を信用出来ない。
自分を愛してくれる人などいない。
自分だけを見てくれる人はいない。
そう考える昴流の根本にあるのは
もう捨てられたくない
ただそれだけだった。
「あきのばかぁ……」
昴流は花畑で膝を抱え込んでしゃがんだ。
明希は今までの人と違うと思っていた。
目が毎回合う。
話を聞いてくれている。
昴流のことを考えてくれている。
花畑に入った事も謝ってくれた。
周りの子と同じように扱ってくれた。
でも明希にはもう、家族がいる。
パートナーがいる。
その間に自分が入れるわけがない。
母とその彼氏がそうだったように
きっと明希も、いつか自分を捨てる。
問題を起こしたら、面倒なことがあったら、いや、その前に家族になれないかもしれない。
明希のパートナーが、自分を疎ましく思ったら、明希もあっさり離れていくんだろう。
結局自分は、ひとりぼっちの、名もない塵だ。
宇宙の塵、星と同じ。
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