アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
89
-
〜明希side〜
「どうして、俺と家族になりたいって思ってくれたの?」
できるだけ優しく、彼の手を握りながら声をかけた。
向かい合って、両手をしっかり繋いで、明希は視線も向ける。
男の子は俯いていて目は合わなかった。
「あきは、ほかのひととちがったから……」
「何が違った?」
「め、あわせてくれる……おれのこと、みてくれてる。おはなのこと、あやまってくれたし、いつもやさしい。」
「そっかぁ、そう言ってくれて嬉しいよ。ありがとう。」
「じゃあ、あきは、おれのおかあさんになってくれる?」
「俺がお母さんになったら、翔也さんがお父さんになるよ。それが嫌なら、俺はお母さんになってあげられない。」
可哀想だけれど、はっきり伝えた。
明希はこの子の『家族』になってあげたい。
この子が自分を選んでくれたから、唯一の『家族』になりたい。
「なんで?なんであきだけじゃだめなの……」
「うーん、そうだなぁ。翔也さんも俺の大事な人だから。どちらかを選ぶことはできないんだ。」
「やだ、おれやだよ。」
「どうして嫌なのか、お話してくれる?翔也さんの何が嫌なのか、お話できる?」
そう言うと、黙り込んでしまう。
まだ話したくないのだろうか。
「…………しょうやじゃなくても、やだ。」
「えっ?」
「あきだけじゃなきゃいやだ……あきだけじゃないと、あきがいなくなっちゃう……」
「俺はいなくならないよ?」
「いなくなっちゃうもん!!……おかあさん、みたいに。」
ポタ、と明希の手に雫が落ちる。
この子が泣いているのだとわかると、今すぐに抱きしめてあげたくなる。
「おかあさんは、すきなひとと、いなくなっちゃったもん……あきも、いなくなる……しょうやが、おれのこときらいになったら、あきもどっかいっちゃう……」
(あぁ、そうなんだ……)
この子の母親は、恋人ができて変わってしまったのだ。
どのような事情で父親がいなかったのかは分からないが、新しくできた恋人といなくなってしまったのだ。
そのことがこの子には悲しくて辛くてたまらなかった。
だから、明希が翔也にとられてしまうことが嫌なのだ。
「ねぇ、星くん。」
「……なぁに。」
「翔也さんは、きっと星くんのことを大事にしてくれるよ。」
「……うそだよ。」
「嘘じゃない。星くんが気に入らないことはあるかもしれないけど、翔也さんが星くんのことを嫌いだって言うことはきっとないよ。」
「……そんなの、わかんないじゃん。」
「ふふ、俺が嘘ついたことある?」
「ない、けど……」
「お話だけしてみない?もしそれで嫌だったら、俺も考えるからさ?ね?」
「……おはなし。」
「うん。俺も一緒にいるから。翔也さんとお話してみない?」
「……やだ、やだっ!だってそれで、おれがしょうやのこときらいっていったら、あきいなくなるんでしょ?やだ!!」
「大丈夫。急にいなくなったりしないよ。家族にはなれなくても、俺はここに来るよ。」
「……ほんと?ほかのことかぞくにならない?」
「うん、ならない。」
これは明希の決意だった。
翔也と仲良くなってくれるかどうかなんて、正直分からない。
ただ、もし仲良くなれなくても、明希はこの子の唯一になりたかった。
戸籍には入れないかもしれない。
家族にはなれないかもしれない。
でもそれがなんだというのだろう。
この子の唯一の『居場所』にはなれる。
本当は家族になりたい。家族として、居場所をあげたい。
けれど、それができないのなら、別に形などいらないだろう。
「じゃあ……おはなし、だけ……」
「うん、ありがとう。星くん、ぎゅーってしていい?」
「うん、する……」
じわりと目に涙を滲ませた小さな子を抱きしめる。
ぎゅうっと明希にしがみついて、顔を押し付けてくる様子から、自分は信頼されているのだと感じて、言葉に表せない思いが募る。
「よしっ、じゃあ行こっか?」
「……うん。あき……」
「なに?」
「おはなし、おわったらさぁ……?また、ぎゅってしてくれる……?」
「うん!もちろんだよ。」
にっこり笑うと、やっと男の子も柔らかい表情になってくれた。
*
「ここでお話する?それともお部屋行こうか?」
「……おへや。」
明希にぴったりくっついて、翔也の方を窺う男の子に、翔也はずっとニコニコしていた。
「じゃあ千秋、もう少し借りるね?」
「うん、もちろん。好きなだけ使って。」
千秋に改めて許可を得て、3人で個室に移動する。
「いいなぁ、明希ちゃんすごく懐かれてる。これが日数の差か……俺も初めから来ればよかった。」
「今からお話して仲良くなる努力をしてください。」
「はぁい。ごめんね?嫌かもしれないけどおじさんに付き合ってくれる?」
「……あきが、おはなししてっていったから。」
「お話してくれるの?ありがとう。」
相変わらず翔也のことを見る視線は鋭いけれど、ニコニコ微笑まれて、少し戸惑っているようだった。
「よし、ついたー。」
「あき……」
「うん?」
「あきのひざのうえがいい……」
これまた随分と珍しいおねだりに、胸がキュンとしてしまう。可愛い。
「ふふっ、いいよ。こっちおいで。」
椅子に座って膝の上に乗せると、翔也はその前に、少し距離をあけて座った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
96 / 189