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〜昴流side〜
「ゴホッ、ゲホッ……げほげほッ……」
酷い倦怠感と咳き込みで目が覚めた。
気づけば外は明るくなっていて、朝になっている。
真夏で暑いはずなのに、寒気がする。
(熱あるな……最悪だ。)
今日は幸いにもアルバイトは休み、部活は自主練習だ。
しかし昨晩喧嘩したばかりで、リビングには行き辛い。
今日1日はリビングに出ないつもりだった。
風邪の兆候など全くなかったが、急に体調が悪くなったらしい。
この状態では、さすがに薬を飲まないとまずい気もする。
(……とりあえず寝てりゃいいか。)
あまり起き上がりたくもないし、リビングにも行きたくないのだから、寝るに限る。
昴流はそう思い、起きたばかりだというのに無理やり目を閉じた。
*
〜明希side〜
(また咳してる……)
朝、翔也から謝られて少し話をして、仕事に行くのを見送った後。
翔也と明希の朝食の片付けを終えて、明希はパソコンに向かっていた。
翻訳の仕事をこなしつつ、いつ昴流が起きてきてもいいように気を配っていたのだが、この1時間の間、ずっと咳をしている。
おさまったと思うとまたしばらくして咳き込み、少しすると落ち着いて、それからまたしばらくすると咳き込むのを繰り返していた。
(風邪かな……)
起きてくるかと思ったが起きてこない。
さすがに我慢しかねて、明希は昴流の部屋をそっと開けた。
「げほげほっ……ごほっ、ごほっ……」
「昴流っ!」
ベッドで背中を丸めて、苦しそうにしている昴流を見て、明希は慌てて駆け寄った。
「熱すごいな……」
そっと手を当てた首元は熱く、熱は高そうだ。
汗もかいている。
明希は1度部屋を出て、保冷剤とタオル、水、体温計を持ってきて、もう一度部屋に戻った。
「昴流、昴流。」
声をかけてみるが、目はあかない。
着替えさせるのは諦めて、とりあえず拭けるところだけ汗を拭いて、体温を測る。
ピピッと音がして、表示された温度は38.5。
やはり高い。
首と脇の片側、鼠径部にタオルで包んだ保冷剤をあてて、汗がすごい額には冷やしたタオルをのせる。
ベッド横のチェストの上に水を入れた洗面器を置いておいた。
それから着替えをすぐ側に用意しておいて部屋を出る。
薬やゼリー、スポーツドリンクなど必要そうなものを買うために明希は1度買い物に出た。
*
〜昴流side〜
また目が覚めたのは、12時より少し前だった。
首と脇、それから股の辺りに温くなった保冷剤がある。
(母さんか……)
酷いことを言ったのに、まだこうして気にかけてくれている。
昴流はそれに安心していた。
まだ見限られていない。まだ捨てられない。
少し体を起こすと、頭がクラクラする。
しかし汗でベタついた服を変えたいし、飲み物も欲しい。
視線を横にやると、すぐ側に着替えとタオル、ペットボトルのお茶が置いてあった。
これもきっと明希の配慮だ。
あまりに暑く、タオルを水で濡らしてそれで汗を拭いてから、乾いたタオルでもう一度拭く。
よくないような気はしたが、暑さに耐えられなかった。
新しい服に着替えて、お茶を半分ほど飲んで、昴流は再び横になった。
リビングから音がしない。
明希は出かけているのだろう。
(しんどい……)
頭がぼんやりして、体が重い。
しかしすぐには眠気がやってこなくて、昴流はスマホを開いた。
何件かLINEが入っていて、その中には京からのものもあった。
靴を渡せたことと、喜んでくれたこと、それからお礼の内容だった。
それに返事を返して、他は急ぎではなさそうだったのですぐにスマホを閉じた。
「げほげほっ、ゴホッ、ゴホッ!」
咳が止まらないのが何より辛い。
こんな風邪をひいたのは、小学生のとき以来な気がする。
(……そん時も、母さんはずっといてくれたな。)
買い物に行っている時以外は、ずっと昴流と一緒にいてくれた。
その時はまだ、明希と翔也と一緒に寝ていたから、ベッドも1つだった。
明希はぐずる昴流を優しく抱きしめてくれて、頭を撫でてくれた。
夏だというのにいちごが食べたい、おでんが食べたいとわがままを言って、けれどそれを全部用意してくれた。
昴流が食欲がなくあまり食べられなくなったからか、食べ物のわがままはなんだって聞いてくれた。
ぼんやりと思い出される記憶の明希は、昴流をとても心配してくれていた。
(今は、どうだろ……)
手当はされている。
けれど、あの時のように心配してくれるだろうか。
翔也に期待はしていない。
小さな頃だって、早くに帰ってきてくれたことはなかった。
本当は、早く帰ってきて一緒にいて欲しかったのに。
仕事が忙しいのもわかっている。
翔也が有名な俳優だということも、昴流は嬉しかったし誇らしかった。
それでも、一緒にいたかった。
院に来てくれていた時のように、一緒に過ごしたかった。
いつからか、俳優だというのが嫌になってしまった。
(はぁーあ……何考えてんだろ。)
起きていると余計なことを考えてしまう。
昴流は布団を顔の方まで被って、目をぐっと閉じて無理やり眠りについた。
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