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〜悠平side〜
「吐きそう無理死ぬ。」
「うるせぇさっさと球よこせ。」
「うぇぇぇ……無理だよ無理ぃ……俺に投げられるわけない……相手白扇だよ?!俺の球が通用するわけないぃぃぃぃ!!!」
白扇(はくせん)高等学校は私立の野球強豪、甲子園常連校だ。
今日は準決勝。準決勝で白扇と当たったのは確かに運がいいとは言えないが、無理無理とネガティブ発言を繰り返している陸玖の球が通用しないわけではない。
(そりゃ一筋縄ではいかないし、作戦も必要だけどな。)
これを口にすると陸玖はさらなるネガティブループに入ってしまうので発言は控えた。
(こいつのこういうとこは本当に何とかならんのか……)
陸玖はピッチャーマウンドに上がるまでのメンタルが壊滅的に弱い。
自分では勝てないだとか、暴投しそうだとか、今日は無理な気がするだとか、そんなことばかり言う。
しかし2年生エースに選ばれた実力は伊達ではない。
バッターを相手に、ピッチャーマウンドで1球投げてしまえば人が変わったようにキリッとして、いつもともまた違う雰囲気になる。
そして試合が終わるまでは完璧な投球をしてくれる。
ただしそれは、悠平がキャッチャーとして構えているときだけで、1度先輩がキャッチャーに入った日は暴投の連続で即交代になった。
それ以降は陸玖が登板するときは悠平がキャッチャーとして入る。
「いいから1球よこせ。話はそれからだ。」
なんとかブルペン(*)に引きずり込む。
「とりあえず投げてみろ。」
キャッチャーマスクを被ってミットを構えれば、へにょりと眉を下げた陸玖がひとまず投球の姿勢になる。
ひとつ深呼吸して投げてきた球は悪くない。
「調子いいじゃねえか。もう1球。」
球を返すと、まだ不安そうな顔で再び投球体勢をとる。
投げられた球をとる時、わざとパァン!と音が鳴るようにとった。
「球走ってる(*)。自信もってマウンド上がれ。」
「……うん。」
まだネガティブ思考のようだが、マウンドに上がる気にはなってくれたのでよしとする。
そのまま投球練習に入り、肩を作らせる。
準備が整い、ベンチに戻ってすぐ、試合開始時間になった。
「「よろしくおねがいします!!」」
挨拶をして、後攻の茅野学園高校はまず守備についた。
3球ほど投げさせ、試合開始になる。
初球。
「ストライク!」
学校ならぶちギレているであろう、腑抜けた球が飛んできた。
(あの野郎……まだ投球の気持ちになってねぇな。)
陸玖はまだ気持ちの切り替えができていないようだ。
白扇のバッターはバットを握り直している。
(ここは変化球見せておくか。)
ストレートがあまりに腑抜けだったので、おそらく白扇は陸玖を侮っている。
しかし2球目もその腑抜けた球がくる可能性もあるので、ここは陸玖の得意な変化球を混ぜる。
2球目。
「っ!!」
陸玖の球は手からすっぽ抜けて、悠平の頭の上を超えていく。
「走れ走れ!」
(……1番打者にワイルドピッチ(*)は痛いぞ。)
ボールを拾って振り返ると打者は既にファーストにいた。
これは白扇の得意な攻撃の流れだ。
まず1番打者が出塁し、盗塁。
2番打者は送りバントで、もし1番打者が盗塁できなくても2塁まではすすめることができる。盗塁が成功していれば3塁だ。
そして3番打者はヒットを狙い、4番打者は残ったランナーをホームに返すために打つ。
こういった攻撃パターンは白線の十八番。
1番打者を出すと気にしなければならないことが増えるのだ。
(牽制(*)を入れたいところだが、今の陸玖に投げされるのは……)
悠平は迷ったがバッター勝負にすることにした。
サインを出し、陸玖が投球モーションに入ったところで、1塁ランナーが走ったのが視界の端に映る。
「セカンド!」
セカンドに向かって投げるが、判定はセーフ。
(まあ、ここまでは予想通り。)
2番打者はバントの構えをしている。
また投球のサインを出し、陸玖が頷く。
「ファーストカバー!」
コン、という音ともにボールが転がる。
上手いバンドだ。
2番打者はアウト、1番打者は3塁まで進んだ。
3番打者が打席に入り、陸玖にサインを出す。
この打者はどうにか打ち取りたい。
3番打者に対しての初球。
ストレートは見送られてストライク。
続いてのスライダーは少し外れてボール。
(まずい、打たれる!)
3球目。
甘く入った球に、悠平はそう思った。
キィン!
と甲高い音が響く。
ボールはセカンドとショートの間を抜けてセンターの方へ転がっていく。
悠平はホームベースに足をつけ、3塁ランナーにブロック体勢。
センターからボールが戻ってくるが、振り返った時にはランナーの足がホームベースについていた。
「セーフ!」
(……先制点だ。)
白 扇: 1
茅野学園: 0
*ブルペン:ピッチャーが投球練習をする場所。
*球走ってる:投球の調子がいい時に使う野球用語。
*ワイルドピッチ:ピッチャーの暴投のこと。
*牽制:ランナーに対して、盗塁ができないようランナーのいる塁に投げる、牽制する球。ここでは投げるとしたらファーストに投げる。
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