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~春陽side~
真夜中、ハッと目が覚めた。
普段はトイレにも起きない春陽だが、なぜかぱっちりと目が覚めてしまった。
(……水でも飲んでこようかな。)
今夜は暑い。
起きると喉が渇いているような気がした。
昂を起こしてしまわないよう、そっと部屋を出る。
リビングに降りるときも静かに、足音を立てないように気をつけた。
リビングの扉を開けると、書斎の扉も開いていた。
(よる、起きてるのかな。)
よるも目が覚めてしまったのかと思ったが、暗闇に目が慣れてくるとソファによるが座っているのがわかった。
「……よる?」
声をかけるとびくりと肩を震わせて、そっと振り返る。
春陽だとわかると、興味を失ったかのようにまた前を向いた。
「眠れないの?」
隣に行くと、よるは膝を抱え込み、指を噛んでいた。
「よーる。」
指の状態から察するに、今日だけではない。
「よーるー?」
「……赤津さん?」
「お、戻ってきたかー?」
「……ぁ、えっと……私、約束……ごめんなさい。」
事務所に入ることが決まって間もない頃、同じようにしていたよると、春陽とよるはある約束をした。
不安になったり、辛いことがあっても自分を傷つけないこと。
無理に誰かに話さなくてもいい。
誰かに話してもいい。
遊びに行ってもいいし、学校を休んだっていい。
けれど、自傷や自殺はしないこと。
「……どのくらい眠れてない?」
「5日……」
「少しも?」
「少しは、眠れてます。でも、まとまった睡眠は、とれてなくて……」
「そっか。本当のこと言えて偉いね。」
「……頭、撫でてくれますか……?」
「触っていいの?」
「ほめてほしい……」
「わかった。」
よるの頭を優しく撫でる。
「よしよし。ちゃんと言えて偉いよ。よるはいい子だね。」
「怖い、です。」
「うん。」
なにが、とは聞かない。
よるが言いたければ聞くだけだ。
「赤津さんの、お父さんとお母さんも、怖い……」
「……うん。」
「すごく優しい人なのは、わかるんです。特に、お母さんは……なんか、私にもお母さんみたいに感じられて……でも、だからこそ、怖くて……あの人も、私のお父さんとお母さんみたいに……」
その先の言葉は続かなかった。
「怖くて眠れない?」
「そう、なのかな……わからないです。赤津さんのお母さんの声が聞こえてると、眠くなって……土日は昼寝、できたんです。」
(母さんの声かぁ。安心するのかな?)
恋の声は特別なものでは無いけれど、話し方は柔らかい。
「声が聞こえなくなると、あの人も、変わっちゃうのかなって思っちゃって……それで、ウトウトしてても目が覚めてしまって……」
「そっか。俺が話してたら、眠れそう?」
「赤津さんが?」
「うん。……いや、でも高校生と同じベッドで寝たら父さんにしばかれそう。」
「一緒に寝るのはよくないんですか?」
「……うん、よるは知らなくていいよ。」
きょとんとしているよるの頭を撫でて誤魔化す。
もちろん、春陽には下心などない。
「さて、眠れなくてもいいから、布団に入ろうね。横になるだけでも体が休まるからさ。」
「……はい。」
「俺もしばらくいるからさ。」
「でも……」
「大丈夫。明日は早起き予定ないし、母さんは俺のこと起こしたりしないから。よるが眠ったら、俺も部屋に戻って寝るよ。」
「……わかりました。」
よると一緒に書斎に入り、よるはベッドに横になり、春陽は椅子に座った。
しばらく話をしながらよるの手を握っていると、よるがウトウトし始めて、そのまま眠りに入っていった。
*
「ん……よる、おきたの……」
椅子に座ったまま春陽もウトウトしていた時だった。
よるの手が離れた感じがして目を開けると、よるは起き上がり、ベッドに座っていた。
「どーしたの……怖い夢見た?」
何も言わず俯くよるを見て、春陽は腕を広げた。
「おいで。」
「赤津、さん……」
「だいじょーぶ、おいで。あ、俺がそっち行く?」
ベッドに上がるとスペースを空けてくれる。
春陽は改めて腕を広げた。
「ん、おいで。」
よるは少し迷っていたが、春陽の腕の中におさまる。
「よーしよし。」
とん、とん、と優しく背中を撫でる。
「大丈夫、だいじょーぶ。」
一定のペースで背中を撫で続けると、よるが少しずつ体を預けてくれる。
ゆら、ゆら、ゆりかごのように体を揺らすと、よるはモゾモゾ動いて、春陽の腕の中でフィットする場所を探した。
いい所を見つけると、甘えるように体を寄せてくれる。
ゆら、ゆら、ゆったりと背中を撫でながら続けると、よるはウトウトし始めた。
少し体勢を変えて、2人で横になる。
春陽もウトウトしながら、よるを撫でることはやめない。
穏やかな寝息を立て始めたよるを見て、春陽も眠気に抗えず意識を手放した。
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