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~空夜side~
「……やばい、なんか俺も緊張してきた。」
甲子園のアルプススタンド。
今日の第1試合に茅野学園高校が出場する。
対戦相手は広島代表、城崎(しろさき)高校だ。
今年の城崎は強打者揃いだと言われている。
「くーちゃん落ち着けー。」
楽器の準備をしながら光樹が苦笑する。
空夜が焦っても仕方ないことなのだが、やはり緊張はする。片割れが先発予定なのだ。
「5分後に茅野の練習入るんで、そこで音出し兼ねてチャンステーマから順番にやるよー!」
そう声をはりあげ、野球応援を仕切っているのは小野啓介(おのけいすけ)、普段はファゴットの担当だ。
その隣で観客たちに曲名を知らせるためにあげるスケッチブックの確認をしているのはオーボエやファゴットを担当している部員だ。
オーボエやファゴットは楽器の都合上、野球応援では演奏しないためこうした仕切り側にまわっている。
「チャンステーマって狙い撃ちだったよな。」
「そうそう。」
「くーちゃんのソロあるのってなんの曲だっけ。」
「暴れん坊将軍のテーマ。」
「そうだそうだ。」
各選手が選んだ曲を、その選手がバッターボックスにたった時に演奏することになっていて、暴れん坊将軍のテーマは悠平の選曲だ。
悠平は陸玖とともにスタメン入りしているので吹く回数もそれなりにある。
(そっちの意味でも緊張してるんだよね……)
「チャンステーマいきまーす!」
パーカッションから借りているドラム用のスティックで合図が飛ぶ。
「茅野学園高校、練習を開始してください。」
アナウンスが入ると皆楽器を構えて、啓介が出す合図に合わせて吹き始める。
このチャンステーマは攻撃の際、ランナーが3塁まで行ったらバッターボックスに誰が入っているかを問わず演奏する。
「次サウスポー!!」
数曲確認したところで、練習時間の終了が迫る。
ここで吹奏楽部の音出しもおしまいだ。
野球応援では音出ししていい時間が厳密に定められている。
次は後攻である茅野学園が守備につく時、ピッチャーに対する応援歌まで演奏できない。
守備中は基本的にピッチャーが変わる時以外は演奏せず、攻撃中の応援がメインになる。
「くーちゃん、今のうちに水分取っときな?」
前の座席から振り返ってペットボトルをくれたのは航だ。
「ありがとう。」
「いいえ!野球部のお母さんたちからだよ。」
3年生の野球部員の両親はかなりの数が応援にやってきている。
2年生レギュラーもいるが、恋のように来れない人もいるので、やはり目立つのは3年生の親だった。
(……陸玖、頑張れ。)
たくさんの人の思いを背負って、陸玖は投げる。
空夜もその陸玖に思いを寄せた。
*
~陸玖side~
「おいおい、誰か早く篠田呼んでこい!」
「こいつ投げる前に失神すんぞー!」
ブルペンで最終調整を済ませた陸玖と、陸玖以降投げる可能性のある先輩たち。
陸玖は死にそうな顔をしていた。
「陸玖!」
「ゆ、ゆうくぅぅぅうん!!」
「うわっ、なん、おまっ……ここまできてなに怖気付いてんだよ!」
「だって、だってえええ!!!!」
「ったく、そんなんでどうすんだよ!!先輩たちの気持ちも背負ってお前はマウンドに立つんだぞ!」
「俺には無理だよぉぉおおお!先輩、先発いきませんか。俺なんかより絶対に先輩の方がいいです、絶対に!!」
「落ち着けって。」
先輩に縋り付く陸玖に、悠平は頭を抱え、先輩たちは笑った。
「大丈夫だよ、赤津なら。」
「そうだよ。俺ら正直、去年まで甲子園なんて諦めてたけどさ、赤津が来てくれて、篠田とめっちゃいいコンビでさ!それで俺らもモチベあがって、ここまでこれたわけじゃん。」
「そうそう。俺らだけじゃなくて、3年はみんな思ってるよ。それに相手は城崎。去年も甲子園来てるからな。当たって砕けろだ!!」
「うんうん!もちろん勝ちてぇし、勝つ気だぜ!でも、もし負けたっていいんだよ。全力で戦って、俺らが楽しめればさ!!」
「せ、先輩ぃぃぃ……」
「よーしよし!!お前はいつも通り投げりゃいいのよ。あとは後ろの3年生に任せな。」
にっ、と笑った先輩たちに、陸玖はブンブン首を振って頷く。
「おら、腹決まったか?」
「うん。俺ができる限りの球を投げるよ。」
「おうよ。お前史上最速出してこい。俺が全部捕ってやっから。」
4人もベンチに戻り、円陣に入る。
「let's go、茅野ー!!」
「「おー!!!」」
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