アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
119
-
~恋side~
恋が動くよりも早く、男は床に伸びていた。
「なんなの、このやばい男は。」
「茉衣、それはやりすぎじゃん?」
苦笑する雪愛だが、茉衣は投げ飛ばした男の上に座ったまま動かない。
「いってて……」
よるの方はといえば、春陽が抱きしめるような格好になっている。
先程打ったところがまだ少し痛いようだが、骨が折れているというわけではなさそうだった。
「よーる、もう大丈夫だよ。紘さんにも連絡したから、すぐこの人は連れてってくれるから。」
カタカタ震えるよるをそっと抱きしめて頭をぽんぽんと撫でる春陽を見て、よるのことはそのまま春陽に任せることにする。
恋は茉衣が拘束している男の方に向かった。
「私は悪くない……どけ!」
「嫌よ。あんた小雪さんに手上げようとしたし。それにママに怪我させたらパパがめんどくさいもの。」
「変なことばっかり言ってたね。正しいのがなんとかとか。頭いかれてるんじゃない?」
雪愛が毒舌なのは小雪譲りだ。
「よるは私が『正しい道』に戻してあげないといけないんだ……」
ブツブツ呟きながらもがく男だが、茉衣は空手の腕前が相当で、力の入れ方をわかっている。
とてもではないが抜け出せそうではない。
「恋っ、春陽、よる、怪我ないか!」
そこにバタバタと入ってきたのは紘だ。
「……こいつ、だよな?」
茉衣が乗っかっているのを見て、紘は春陽の方に視線を向けた。
「うん、そうです。茉衣ちゃんが投げ飛ばしちゃったけど。」
「紘さん、もしかして私まずいことしました?」
「いや、まあ、大丈夫だろう。正当防衛、だ。うん。」
「さっきからブツブツ変なこと言ってるんだけど、この人頭いかれてるんですか?」
ストレートにそう尋ねた雪愛に紘は苦笑した。
「あんたがよるを連れていったのか……そうか、お前らのせいなんだな!よるがおかしくなったのはお前らのせいだ!」
「少し落ち着いて話を……」
「うるさい、黙れ!お前らのせいだ!お前らがよるをおかしくしたんだ。返せ、私のよるを……」
ここで、恋の中の糸がプチン、と切れた。
「さっきから聞いてれば、おかしいおかしいって、よるちゃんが何したって言うんだよ。大体子供は親のもんじゃないだろうが。俺より歳上だよな?その歳でそんなことも分かんないのか?」
「あーあ……母さんキレちゃった……」
「こうなると恋は止められないよな……」
どうしたものかと顔を見合わせる春陽と紘、そして恋の口調の変化に驚くよるだが、恋はもうそこを気にしている余裕が無い。
「よるはこんな子じゃなかったんだ!よるはおかしくなった。よるはきちんとした大学を出て、しっかり働いているちゃんとした男と結婚して子どもを作り、普通の幸せな人生を歩むはずだったんだ!それなのに……お前らと関わったせいで女が好きだとか言い出して……だから躾してやってるんだ。親の私がよるを『正しい道』に戻してやるんだ!」
「同性同士でも妊娠はできるけど?そもそもこの時代にその考え方古すぎだろ。ちゃんとした男ってなんだよ。そのちゃんとしたってなんの基準だよ。お前の勝手な物差しで測るなよ。同性を好きになることは道を踏みはずすことなのか?『普通の幸せ』ってなんだよ。人の道を外れてなければ、親は子どもと向き合って話し合って、受け入れていくもんだろ。」
最初は受け入れられないかもしれない。
自分と違う人を、人間は受け入れにくい。
だからすれ違うし傷つけあう。
けれど親は、子どもと向き合い、話を重ね、子どもを受け入れようとしなければならないと恋は思う。
全く理解することは不可能だろうが、子どものことを支えてあげられるのはやはり親の力が大きい。
子どもの価値観、考え方、友人関係、将来。できる限り子どもの意思を優先し、人の道を踏み外すことはないように親が途中までは導いていく。
あとは子どもの力で、切り開いていくのだ。
「子どもは自分とは違う生き物だ。別物なんだよ。お前の理想を押し付けんな。」
まだ男は納得していなさそうだったが、反抗はやめた。
茉衣がどき、紘がまた連絡する、と言って男を連れて出ていく。
「恋……大丈夫?」
「楓!瑠梨ありがとう。もう大丈夫だよ。」
リビングに顔を出した楓は安心した様子を見せる。
瑠梨は2階で絵本を読ませて待たせているらしい。
「じゃあ今連れてくるね。」
「うん。茉衣ちゃんと雪愛ちゃんも大丈夫?小雪さんも……」
「大丈夫大丈夫。」
「茉衣強すぎて笑ったんだけど。お母さん平気?」
「うん、僕は平気だよ。よるちゃんは……」
皆の視線がよるのほうに向く。
よるはまだ春陽が抱きしめていた。
「よるちゃん、少しお話しようか。」
恋がそう言うと、よるが春陽の胸元から顔を上げる。
「ねっ。」
にっこり笑うと、こくりと頷き、春陽に促されてソファに座った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
127 / 189