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死んだ奴らは仇を打とうと、戻る訳でもない。
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彼に関わった人物は謎の死を遂げる。彼が触れた者は全員死ぬ。
また誰かが言う。“そんな事は考えられない” “非科学的だ”と。だが現実は違った。
この能力に気づいたのは僕に良くしてくれていた執事長が突然の死を遂げた時だった。これで三人目だ。一人目は母。二人目は姉。
二人は血縁関係だった為、遺伝的なものだと考えられていた。しかし執事長が亡くなった。
そんな時、皆はこう噂した。“リアム様が触れた者は死ぬのではないか”と。僕は何もしていないと言うには遅すぎた。何故遅くなったか、それは紛れもない事実だと僕も知っていたからだった。
僕は異常なまでに潔癖症だった。僕は特定のシェフが作った者しか口にしないし、掃除は一日に五回はさせる。勿論、僕が触れる者も限定しており母、姉、最後にその死んでいった執事長の三名だけだった。あちらから触れることは許さない。その為、僕から触れることのみだった。僕は執事長が亡くなってから誰にも触れなくなった。
トントンと部屋の扉を叩く音がする。こんな夜中に何の用だと本を閉じ扉を開けると父が立っていた。珍しいことに驚きを隠せない僕に父は馬車に乗ることを命じた。玄関に行くと埃が被っている僕の足より少し大きいサイズの靴をはいた。潔癖症の僕にとって屈辱的でつい顔をむっとさせた。
それは僕の初めての外出だった。
馬車には厚手のカーテンがかけており外は見えず何故か父は馬車の天井にかけられているランプに火を灯さなかった為真っ暗の沈黙が続いた。それから三時間くらいだろうか、着いた先で僕は父に降りるように命じられ人生で初めて地を踏んだ。そこには、森林が広がっており僕の前には黒い影が三つ並んでいた。
「それでは頼む」
父がそう言うと黒い影は僕に布切れを押し付け、僕は必死に抵抗したが景色がぼやける。意識が遠のくなかで僕が最後に見たものは僕を置いて馬車に乗る父の後ろ姿だった。
目を開けると暗闇の中だった。目が慣れてくると次第に分かった。ここは、布に覆われた籠の中なのだと。ざわざわと大人達の笑い声や会話が聞こえる。
「次の商品はこちら!皆様知っての通り世界三代美鳥と言われている~」
うるさい音が耳に突き刺さりここが競売であることが分かった。薄々気づいていたが今確信した。父は僕がこの能力に気づく前から僕の能力に気づいていたのだ。
父は母が嫌いだった。政略結婚だったらしい。貴族界隈ではよくある話だ。父は母の妹を激愛していた。母が死ねば、その叔母と婚約できると思ったのだろう。現にそうだ。父は叔母と婚約した。姉が死に至った時僕の能力に、気づいた父は僕を避け僕が母を触れるように仕組んだのだ。きっと埃の被ったこの靴は母が亡くなった時に履かせここに連れてこようとしたが、母が亡くなった当時、僕にとってこの靴はあまりに大きすぎた。僕にこの靴が合う日が来る間に予想外にも執事長が亡くなったとのだろう。
「五十万トゥール!!お買い上げおめでとうございます!!」
こんな事を考えているうちに僕が入っている籠がステージまで動かされる。籠に掛けられた布。籠の世界で分かるのは汚い大人達が吐く欲だけだった。それは酷く僕の心を蝕んだ。かけられている布を司会が勢いよく引く。
光で目が慣れないなか見えた光景は地獄だった。仮面を付け、着飾った老若男女がにたにたしながら籠の中を見つめていることが分かる。
「次の商品はこの少年!!色白で細身にきめ細やかな肌!!それに整った顔立ち!!観賞用としても充分価値のある少年ですが!!それだけではございません!!こちらの商品は触れた者を地に返す能力を持った人間でございます!!」
明るく陽気に司会は話す。
「信じられない淑女紳士の皆様!!ご安心を!!今からその能力をお見せ致します!!」
僕に追い打ちをかけるよう奴はぺらぺらと話す。悲嘆に浸っている暇はなかった。薄汚れた犬が僕が居る籠の中に入る。僕は息を止めたが遅かったらしい。犬アレルギーが酷い僕は喘息を起こした。犬がこちらに詰め寄ってくる。喘息と汚いそれを見て上手く話せず心の中でひたすら(来るな!来るな!)と叫んでいた。そんな叫びは犬には届かず観客はまたざわざわとする。必死に、声が出ない口で叫んだ。(助けて、誰でも、誰でもいいから!)
「可哀想に。辛いでしょう。」
ステージにもう一つの影ができる。見上げるとすらっと身長が高く青白い顔をした男が目の前にいた。その男の顔は逆光でよく見えなかったが確かに笑っていた。
だが他の奴らとは違い商品としての僕をまじまじと観る下衆な目でもなければ喘息持ちの商品を睨む目でもなかったのだった。それは確かに“僕”だけを見つめていた。
僕を見るそいつの目はまるで執事長が大切にしていた黒薔薇のように深く暗い色をしていた。そいつの目が淡く光ると僕の喘息は収まり犬は泡を吹いて白目になっていた。僕は睨みながらそいつに尋ねた。
「何が目的だ。」
「そんなに睨まなくても…あぁもしかして犬がお好きでしたか?」
「そんなわけあるか。こんなにも近い位置で殺してそれの吹いた泡が僕に付いたらどうするつもりだ。」
「おや、失礼」
と燕尾服のそいつはそう言ったがその光景を楽しんでいるように見える。
「僕の質問に答えろ。お前の目的はなんだ。」
「私の目的は貴方の執事になることです。」
笑いながらそいつは言った。困惑している僕に続けて喋りかける。
「私は貴方の血肉を喰らいたい。貴方が闇に落ち死に至るその傍らで貴方の血肉を喰らいたいのです。」
「お前は何者だ」
僕が質問するのと同時に五人ほどのマフィアの護衛が銃を構え、そいつの後ろを半円型に囲む。
「この続きは後にお話しましょう。」
「何わけのわかんねぇこと言ってんだ!!死ねぇ!!」
マフィアの護衛全員が一斉に銃を発射するが次の瞬間四つの弾は燕尾服をはためかせ華麗に振り向く そいつの五本指の間に挟まっていた。とても人間業ではない。最後の弾はそいつの腹に命中していたがそいつは余裕そうな笑みを浮かべていた。
「ひぃ…ば、化け物だ!!」
マフィアの護衛は失禁しており産まれたての子鹿のように足をぷるぷるとさせていた。
「お返しします。」
そいつは微笑み弾を指で飛ばすと四人の眉間に貫通する。先程まで楽しんでいた観客達も身の危険を感じたのか 大慌てで出入口から逃げようとする。しかし、そいつの目が光った瞬間観客達の首が消し飛ぶ。その光景を見ていた司会はひぃと情けない声をだしその場でがたがた震える。燕尾服のそいつは笑顔で司会に近づき微笑むと司会は砂のようになり宙へ舞った。
この光景を唖然と見ていた僕に向かってそいつは喋り出す。
「私は吸血鬼です。」
そいつは笑いながら僕が聞いた先程の問いに答えた。
「吸血鬼だと…?」
「えぇ、そうですよ。何度も言わせないでください。それとも何度も言わなければ理解できないのですか?人間は不憫ですねぇ」
そいつは嫌な言い方をしながら、にやにやとこちらを見下して笑う。
「な…っ、まぁいい。」
あの人間業でない動きはそいつが吸血鬼だと言うには充分だった。偉そうに見下すそいつの首を今すぐにでも刎ねてやりたいがそんな手段はどこにもない。それにそれより聞きたいことがあったのだ。
「吸血鬼、お前は何故僕の血肉を欲しがっているんだ。お前なら血肉くらいどこからでも手に入れられるだろ。それに執事にならなくとも僕の血肉くらい喰えるはずだ。」
「確かに私なら血肉を採取することくらい容易い、勿論貴方を含めて。ですがそんなの数百年と続け私は飽きてしまった。そんな時、森林で貴方を見つけた。今まで私が食べてきた中でも一番美味しく実りそうな貴方を。これから数百年生きる私はここで貴方を喰らっても退屈です。なので貴方に賭けてみる事にしました。」
「何をだ。」
「私が飽きるまでに貴方が美味しく実るかどうかをです。」
そいつは笑顔でそう言った。馬鹿げている…。
「それに貴方は能力者でもなければ我々のような吸血鬼でもないのに能力が使える…退屈せずに済みそうだ。」
(能力者ではない…?)僕は困惑した。
「どういう意味だ。」
「おや、貴方は気づいていないのですか?貴方の能力が人工的に作り出されたものだということに。」
「どうゆうことだ。説明しろ!」
ぺらぺらと話すそいつの胸ぐらを籠の中から掴み揺さぶる。
「基本生まれながら能力を持った人間からは能力持ち特有の香りがするのですが貴方からはその香りが全くと言っていいほどしない。」
「じゃあ僕の身内や使用人は誰かが作り出した能力で殺されたと言うことか?」
「えぇ、そういう事になりますね。ちなみにその中で最も早く貴方が殺害した人物を伺っても?」
教えるのは気が進まなかったがそんなことは言っていられない。
「僕の姉だ。」
「それではおかしいと言うことに気づきませんか?出産時貴方の母君は貴方を抱きしめなかったのですか?人間はそのような無意味な行動をすると聞きましたけれど。出産時は貴方のお姉様が手伝ったわけでもないでしょう?お姉様の前に出産を手伝っていた医者が亡くなると思うのですが…」
僕は、気づかなかった。いや、気づいていたけれど…。
「その様子では気づいていたがこの能力について考えたくなかった、と言ったところでしょうか?」
思考を読み取られ苛立ちを覚えた。
「いいのですか?死んだ者達の仇とやらを取らなくて」
「くっ…ふははははっ」
リアムは笑った。吸血鬼は不思議そうにリアムを見つめた。
「お前でもここまでは僕の思考を読み取れないんだな。死んでいった奴らの仇?笑わせるな。そんなことをしている暇はない。僕にここまで屈辱的な思いをさせた父、僕に能力を授けた奴らを皆殺しにするまでだ。それに死んだ奴らは仇を打とうと、戻る訳でもない。僕はそんな無意味なことはしない。」
吸血鬼はまた口を開きこう言った。
「少々、貴方のことを見くびってました。期待通り…いえ、期待以上の獲物です。」
「僕はその為に手段は選ばない。僕の執事になれ!吸血鬼!」
「仰せのままに。」
くすっと笑いながら執事になったそいつは膝立ちになり籠から僕の手を取り甲に口付けすると籠は簡単に弾き飛んだ。
それがはじまりだった。
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