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「…少し1人にさせろ。」
理央にそう言いつけ、車を下りた。
が、あまり遠くに行くわけにも行かない。
仕方なく目の前の公園に足を踏み入れた。
さすがにこんな時間に人はいないだろう。
もう、夜の11時を過ぎている。
そう思って、煙草を取り出した矢先、
「…君は野良猫だよね?」
心地のよいテノール声が鼓膜を揺らした。
思わずそちらの方に足を向けると、そこには、
「っ…」
抜けるように白い肌に、色素の薄いふわふわと
した髪の毛。くっきり二重の大きな瞳をもつ、
整った顔立ち。
「…飼い主さんが見つかるといいね。」
そう言ってふわっと微笑み、猫の頭を撫でるその姿は、まるで映画の中のワンシーンのように美しい。
俺は引き寄せられるように、そいつに近づいた。
細くて小さい体。
あまりにも華奢で、
今にも消えてもしまいそうに見える。
俺の気配に気づいたのか、目の前のそいつが
こちらを向く。
「っ、」
心臓が鳴った。
茶色がかった、何の汚れもないガラス玉のような瞳が俺を映す。
「…お前、名前は?」
「えっ…?」
驚いたように少し目を見開いたそいつ。
いきなり初対面の奴に名前を聞かれたら、確かに不審に思うだろう。
どうしたものか、とそいつの目の前にいる小さな猫に視線を落とした。
「…その猫の飼い主探してんのか。」
さっきこいつが言ったことを思い出し、呟いた。
「えっ?あ、探してるというか…飼ってくれる人がいたらいいなって…」
俯きながらぼそぼそと話すそいつを見下ろして
口を開き、
「じゃあ、その猫俺が飼ってやる。」
自分でもびっくりするような言葉を発した。
…何言ってんだ、俺。
猫なんて飼ったこともないのに。
けど、
「ほ、ホントですか…?!」
目の前のこいつが、
顔を上げてこっちを見たから。
俺は、この猫を飼うことに決めた。
「ただし、お前が名前を教えてくれたらな。」
「へ?」
俺の視線から逃れるように、俯いたその顔を
上げさせた。
「名前は?」
「…ひ、平野楓。」
か細い声が耳に響く。
「…楓、か。」
何故か言葉にしただけで、じんわりと胸が温かくなった。
「…楓。」
思わずその白い頬に手を伸ばした。
するりと撫でれば、触っただけなのに自分の手
から甘い痺れのようなものを感じる。
…ほしい。
自分の中に溢れたものがわからなくて、
気づいたら、
楓の唇に自分のものを重ねていた。
「えっ…?!」
柔らかく甘味な瞬間は一瞬で消えて。
顔を真っ赤に染めた楓が、慌てたように走り
去って行った。
「…楓。」
…ほしい。
「若~?」
後ろから近づいてきた理央に、ため息を吐いて
立ち上がる。
「なんか偉い美少年でしたけど、…あれ?男で
あってますよね?あの子。」
へらへらと頭を掻きながら話す理央。
どうやら、さっきの一連のことを車から見ていたようだ。
それなら話が早くていい。
「…名前は平野楓。調べろ。」
俺の言葉に、少しだけ理央が驚いたように目を
見開いた。
「どうしたんっすか?」
「…何がだ。」
「若がそんなこと言うの初めてじゃないすか。」
「…」
理央の言葉を無視して、ニャアニャア鳴いている小さな猫を抱き上げた。
「…え、その猫どうするんすか?」
「飼う。」
「…え、」
間抜けな顔をした理央の横を通りすぎ、車に
乗り込んだ。
慌てて俺の後を追ってきた、理央が隣で口を
開く。
「な、名前は?!決めたんすか?」
「…名前?」
猫の小さな頭を撫でながら、楓のことを考えて
いた。
「…楓。」
「いやいやいやいやいや、!それさっきの男の子の名前丸パクりだから!」
隣でうるさく喚く理央に舌打ちを打って、少し
考えてからもう一度口を開く。
「…メープル。」
「……若がもう、さっきの奴のことしか考えて
いないのはよくわかりました。」
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