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学校一の陰キャが学校一の不良に「諸事情あって」ベタ惚れされた話
第17話 正体
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驚く天宮の肩を、思わず掴み問いただす。
「そ、それ、どんなのだったか分かる?」
「さ、さあ?俺目を閉じてたから……目を開けてこっち見ろとかうるせえから、無視して開けないようにしてたし。そしたらなんか体熱くなってさ……」
そ れ だ。
間違いない。
その飲まされたジュースとやらが原因だ。
そしてその薬の正体は、これまでの天宮を鑑みるに粗方検討がついている。
いやまあ、漫画みたいで信じられないけど……それしか説明がつかないのだ。
多分、惚れ薬。
でもそれを飲まされたと分かったところで、どうすればいいのだろう。
飲ませたであろう奴らの顔はあの幸也とかいう男以外ほとんど覚えていないし、何より天宮の報復に来たという奴らに治す方法を聞いたところで答えてはくれないだろう。
……それにしても。
惚れ薬を使って、あいつらは何をしようとしていたのだろう。
例えば筋弛緩剤のようなものを飲ませて抵抗できなくなったところをボコボコにするなら分かる。
けど惚れ薬を飲ませたところで……。
「……」
チラリ、と天宮を見る。
こちらを見つめ返す天宮の瞳には熱がこもっていて、殺気は一切ない。
まさか、あいつらは……。
「……と、とにかく。あまみ……優ちゃん。優ちゃんは多分、惚れ薬を飲まされたんだ」
頭の隅に浮かんだ嫌な考えを振り払い、天宮に声をかける。
「惚れ薬……?」
「そう。だから俺なんかを好きって思い込んでる。……それだけ。もしかしたら時間が経てば治るかもしれないけど、とりあえず治し方いろいろ調べてみるから待っててほし────」
「嫌だ!」
「……え?」
黙って俺の言葉に耳を傾けていた天宮が、唐突に声を荒らげた。思わず下げていた目線を上げると、辛そうに口を引き結んだ天宮と目が合った。
また泣きそうな表情だ。
こんな顔、できたんだなあ。
関わりなんてあの一件以外一つもなかったから、知らなかった。
ぼんやりと、そんなことを考える。
「この気持ちが嘘だって?そんな訳あるか。昨日も言っただろ。俺はお前のことが好きだったんだよ。昨日のことより前から。俺の気持ちを、そんな風に無下に扱うな!」
「…………天宮」
堪えきれなかったのか、一雫の涙が紅潮した頬を伝う。
穢れなんて知らないような、透明な涙。
陽の光を受けてキラキラと輝いていて、とても……
綺麗だった。
「天宮……俺は」
「……優?」
「!」
自分でも、何を言いかけたのか分からなかった。けれどその何かを言う前に、ガチャリと音がして誰かが屋上へと入ってきた。
振り返ると、人当たりの良さそうな至って普通の見た目の生徒と目が合う。
見覚えがある。多分、今朝天宮と一緒にいた人だ。
名前は確か……。
「あ………………まこ、と?」
天宮が驚いたように呟いた。
そうだ、誠だ。お互いの家に行き来でもするような口ぶりだったのを覚えている。
こうして近くで見ると本当に俺と同じくらい地味で普通の人だ。失礼ながら天宮と仲が良いようにはとても見えない。
けど呼び方からしても、俺のその印象は違うのだろうけど。
「クラスの人から、優の様子がおかしいって言われて……どうしたの?その人は……?」
「あ、俺は……」
不思議そうな目で見つめられる。そこにはどこか品定めするような意味合いも含まれているような気がした。
「……なんでもねえよ。それより誠、俺のことは放っとけって言っただろ」
どう言えばいいのか分からず黙っていると、天宮が唐突に口を開いた。
その声色からして、さっきまでの甘い雰囲気は微塵も感じられない。
もしかして、もう治った、のか?
尋ねる間もなく、天宮は男の横を通り過ぎて校舎内へと戻って行った。
「ちょ、ちょっと優……」
誠と呼ばれた男は俺に軽く会釈をすると、その後を追いかけていった。
後に残ったのは、俺一人だけ。
……治ったとして、また俺は報復の日々に怯えることになるのだろうか。
なんだかあのおかしな天宮を見てしまっては、それもどこか考えづらかった。
とにかく、もう関わらないでいいのならそれでいい。
今まで通りだ。
けれどどこか虚無感を覚えたのは……
きっと、気の所為だろう。
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