アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
学校一の陰キャが学校一の不良に「諸事情あって」ベタ惚れされた話
第57話 夕陽
-
「……」
後に残された俺たち三人は、呆然としたまま立ち尽くすしか無かった。
「……何だったんだろ、結局」
どのくらい時間が経ったのか、まだ頭の整理が追いついていない俺はようやくそれだけ口にする。
「あいつ、春くんを弄びやがって……許さねえ!」
天宮はまだ怒っているようだ。からかわれた?せいか顔が赤い。
俺に突然キスをしてきたにしては純情らしい。人のことは言えないけど。
「ていうか、二人ともごめん……俺、役に立てなくて」
我に返ったのか、青木がそう言って頭を下げた。あいつのことは考えても埒が明かないとも判断したのだろう。
俺も素直にそれを受け入れ、話題を変えることにする。
「まさか!青木のおかげであいつ……幸也の情報分かったし」
「春くん?」
「ん?」
本音を言っただけなんだけど、天宮は何か気に入らなかったらしい。ジト目でこちら睨んできた。
元は生粋の不良に睨まれるというのはやっぱり慣れない。正直言って殺されそう。
「何あいつの言うこと聞いて幸也って呼んでんだよ!馬鹿!」
「うぐぅっ!」
しかも腹パンされた。いや、天宮にとってはかなーり手加減した軽いもので実際大したことないんだろうけど、腹筋という概念がほとんど存在しない俺の腹部には非常に刺さった。
「優ちゃん……もうちょっと力加減を……」
「あぁごめんつい!」
「何やってんの二人とも……」
冗談でも天宮を怒らせてはいけない、と改めて確信する。青木は呆れ顔だ。
まあ、さっきまでのしょぼくれた空気が戻ってよかったけど。
「……とりあえず、もうあいつは当てにならなさそうだね。佐山くんに無茶させるわけにもいかないし」
「手当り次第天宮に何かすれば戻るかも……」
「それですぐ戻るならとっくに戻ってるよ。それにあいつの言ってたヒント……嘘かもしれないけど、本当なら佐山くんに関わる問題じゃない?」
「うーん……そうだな」
自分の気持ちと向き合う。自分っていうのはつまり俺のこと。別に俺は自分の気持ちから目を逸らしてなんか……してないはずだよな?
「……ん、ごめん」
ふと、聞き慣れない着信音が響いた。いかにも初期設定の単調な電子音だ。どうやら青木のもののようで、ポケットからシンプルなスマホを取り出した。
「もしもし?ああ、母さん?」
母親からの着信だったらしい。何やら背を向けて話し始めてしまった。
俺の隣にいる天宮は落ち着かないのか、さっきからずっとソワソワしている。
「……春くん」
「っ……な、何?」
話しかけられて、思わずビクッと体が反応する。
「俺の知らない間に神崎に会いに行ったりするなよ?」
どうやら、俺が嘘をついてこっそりあいつに会いに行くのを懸念していたらしい。
「しないよ……あいつに何かされるのは俺も嫌だし」
「……良かった」
「っ……」
夕日に照らされた金髪が、キラキラと光を受けて輝いていた。けれど照れくさそうに笑うその姿は、それ以上に眩しく見えた。
「ごめん、二人とも。俺駅まで親が迎えに来るみたい」
思わず魅入ってしまったものの、青木が戻ってきたことにより現実に引き戻される。
青木は体が弱いと言っていたし、余程心配されたんだろう。今日のこともきっと止められたに違いない。
多分天宮のために強行したんだろうけど……。
「やっぱお前の母さん心配してたんだな」
幼馴染だけあって、二人は互いの親も認知しているらしい。それとない会話に心が引っかかる。
何か嫌だけど、まあ仕方ない。そういうものだ。
「うん、丁度仕事も早く終わったらしいし。……二人とも乗せていってもいいと思うけど」
「いや、お母さんに悪いし、俺は一人で帰るよ」
「俺もせっかくだし、春くんと一緒に帰るよ」
ぎゅっと天宮に腕を掴まれた。体温が直に伝わってきて、体が熱くなる。
やばい、青木にまたなんか言われる……。
そう思ったけど、青木はどこか憂いを帯びた表情で笑うだけだった。
「そう?まあ、でも……二人は一度ちゃんと話してみるのも大事だと思うしね」
「……」
予想とは違う態度に驚いていると、ぽんと肩に手を置かれる。
「でも、俺のいないところで優に手を出したら許さないから」
「分かってるよ!」
というのは俺の杞憂で、結局青木はいつも通りだった。
「じゃあ、駅まで一緒に行こうか」
「はいはい」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
61 / 71