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02 グラウンドの彼 -1
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「チバセン日誌書いたよー」
「枝本(えだもと)。お前は敬語も使えないのか」
「ちばせんせー日誌書きましたぁ」
語尾がだらしないぞ、語尾が。
口うるさく言うのも面倒だったので、敬語に直しただけマシだと、目を瞑ってやった。
日誌を差し出してきたのは、俺が受け持つ1年2組の女子生徒、枝本あかりだ。胸下くらいまでありそうな髪をポニーテールに結ってあり、眉上で綺麗に整えられた前髪のおかげで彼女のくりっとした目がより強調される。
「チバセン、もう帰るの?」
だから、敬語を使え。
無言の圧力で枝本を睨みを効かせると、枝本は、「あ、」と気づいて言い直した。
「ちばせんせーもう帰るんですかっ」
ちなみに、“チバセン”とは校内で生徒に付けられたあだ名だ。千坂青葉の“千”と“葉”を取って千葉先生。略してチバセンだ。いつからかそのあだ名が広まったのだが、未だに誰がつけたあだ名かは判明していない。
「もう帰るよ。枝本も日直の仕事終わったんなら暗くなる前に帰りなさい」
「じゃあ先生、一緒に帰ろ」
はあ、もう、一々タメ口を注意するのも面倒くさい。
「俺はお前の友達か?それとも彼氏か?」
「彼氏がいい!!」
「アホか」
書類をカバンに片付けながら、思わず苦笑した。
「そういうのは本当に好きな人に言いなさい」
「.....私、せんせーのこと好きだもん」
「ヒジョーにありがたい話だが残念だったな。高校生のガキンチョは対象外だ」
ガキンチョを強調して言うと、む、と枝本は唇を尖らせた。
「...チバセンのくせに」
「なんだって?」
「なんでもないデス!」
「ふくれてないで、とにかく早く帰りなさい」
「....」
帰宅を促すと、急に枝本は押し黙った。枝本が黙るなんて珍しい。わりかし最後まで冗談を楽しんでから、「じゃ、先生さようなら」とすんなり帰っていくのに。
多感な時期を生きる彼等高校生の変化に気づき、教え導くことが教師である俺の使命だと思っている。枝本は何かを抱えていて、話を聞いてほしくて俺に訴えているのだ。それならば、話は別だった。
「枝本、荷物は教室か?」
「うん.....」
「そうか」
俺は、手にしていたカバンを一旦デスクの下に戻し、席を立った。枝本はそんな俺の姿を、大きな目をさらに大きくして目で追った。
「チバセン、どこ行くの」
「お前の荷物を取りに行くんだよ」
流石に一緒に帰るわけにはいかない。女子生徒とあらば尚更だ。棒立ちしている枝本に振り返り、小さく笑いかけてやった。
「ほら、行くぞ」
一呼吸おいて、「...はい」とだけ、しかし今までで一番まともな言葉遣いで、返事が返ってきた。
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