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第1章ー06 好き勝手やらせてもらおう
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「室長は、副市長と上下になるのが三回目なんだ」
「そっか」
「室長の仕事の仕方は澤井さん譲りだ。だから通じるところがあるんだろう。おれにも分からないことが多い」
「嫌味を物ともしない室長の肝の据わり方。この部署で学び取らないといけないな」
「ポジティブ」
大堀は箸で彼を指す。
「大堀。行儀が悪いぞ。おれは、転んでもただでは起きない質でな」
「転んだんだ」
そこは突っ込むところではないとばかりに、安齋がじろっと大堀を睨む。
二人の会話を眺めて、内心ため息を吐いた。
同期とは善し悪しだなと思うのだ。
少しでも年齢の差があると、年下が譲るところも出てくる。
だが、同期同士という関係性はそういった配慮が薄れるようだ。
同期と仕事をしたことがない田口には、大変気を遣う状況だ。
上手くやれるのだろうか。
澤井の元でしごかれるのもきついが。
これはこれできついのかも。
そう思ってしまう。
半日しか経っていないのに、かなり疲弊しているのが分かる。
お弁当に視線を落とし、じっとしていると大堀が声を上げた。
「お疲れさまです」
「おかえりなさい」
二人の声にはっとして顔を上げると、保住が戻ってきたようだ。
まだ初日なのに。
朝、整えてあげたネクタイは緩められていてひどい有様だ。
苛立っている様子も見受けられる。
まるで、自分と住む前の彼みたい。
それだけ午前中の打ち合わせは、ストレスフルだったということだろう。
田口は黙って保住を見る。
彼は疲れた顔をしていた。
「まったく、話が通じない」
「財務ですか」
田口の問いに、彼はどっかりと椅子に腰を下ろしてから、書類をデスクに置いた。
「予算の件。まったくもって何も考えていないらしい。概算もない中で企画を立てるなんて無謀すぎる」
「概算もないんですか?おかしいな」
大堀は首を傾げる。
「昨年、おれが異動する前の担当者は電卓叩いていましたけど」
「そんな先の予算の概算など出せるかの一点張りだ」
「財務は、ごっそり異動になったのです。慣れていない分、そういう目測はできないかもです」
「そんな事情は知ったことではない。おれたちの仕事が進まない」
「それはそうですね……」
保住は、椅子にもたれると「疲れた」と言わんばかりに黙り込む。
これは前途多難。
他部署の協力が得られないことには孤軍奮闘。
そんなところだろうか。
「田口」
「はい」
「お前、どう思う?」
保住は彼に問う。
「そうですね。お財布のプランニングがないなら……、何でもいいってことじゃないでしょうか」
田口は、至って真面目な顔で保住を見据える。
「何でもって……」
呆れて呟く大堀を尻目に、保住は不敵な笑みを浮かべた。
「そういうことだな」
「?」
「室長、まさか」
安齋は、開いた口が塞がらないとばかりに言葉を止める。
保住は、さっきまでとは打って変わって、目を輝かせた。
「しがらみがないということは、好き勝手やっていいということだ。よし、今日から役割分担をする。好き勝手やらせてもらおうじゃないか」
「室長」
「いいんですか?」
「いいに決まっている。ともかく、まずはアニバーサリーの一年間に開催する企画を決めよう」
「はあ……」
嬉しそう。
田口は苦笑した。
今まで抑圧されて仕事をしてきた彼だ。
ネクタイをぐっと引っ張って、戦闘態勢。
保住らしい。
「今日の午後は企画会議だ」
手を鳴らした彼とは裏腹に、安齋や大堀はますます顔色が悪い。
精神的に厳しい部署に来てしまったものだという後悔の念があるのだろう。
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