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第2章ー01 赤ペン先生
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新部署がはじまって、1ヶ月が経った。
安齋も大堀も少しずつ保住のペースを掴んできたようだ。
あちこちから寄せ集めではあるが、それぞれの能力は低くはない。
文化課振興係に配置された時、自分は全く持って彼のお眼鏡にかなうことなく最低点を更新していたのだが。
安齋も大堀もそんなことはない。
まあ、赤ペンは多いみたいだけど。
初日に出そろった企画について、それぞれの担当ごとに企画書の作成にかかっていた。
田口も然り。
パソコンと資料を広げて、キーボードを叩いてみたり、考え込んでみたりしていると、時間が経つのは早い。
「大堀、これ」
「はい」
ふいに保住の声に我に帰る。
つい5分程度前に提出していた書類の返しが始まったようだ。
「安齋、修正して」
「はい」
次々に呼ばれるメンバーは席を立つ。
「田口」
「はい」
一度に出された書類を精査して、一度に指示を出すつもりのようだ。
パソコンから目も離さずに書類を差し出す保住の手から書類を受け取る。
「コンセプト、もう少し明確に」
「はい」
書類を受け取ってから席に戻ると、目の前の大堀が顔色を悪くした。
書類に視線を落として、真っ赤に赤ペンされているのを目の当たりにしたようだ。
「あちゃ……」
安齋は予算の部分の赤ペンを眺めてため息。
田口は、そのまま机に座ってパソコンに向かう。
「田口。これって、何回赤ペンされるの?」
大堀は、ぼそぼそっと田口に尋ねる。
田口は顔を上げて大堀を見た。
「納得するまでだ」
「うへ……嘘でしょ。これで5回目」
「まだまだ序の口」
今度は安齋の書類を覗き見した大堀は、顔を顰める。
「同じくらいなのに。安齋のは赤ペンが明らかに減っているじゃない」
「おれは優秀だからな」
「冗談でしょう?」
大堀は、ますますため息だ。
そんな無駄口を叩いている間に安齋は、予算の部分を訂正したようで保住のところに行く。
「室長、確認をお願いします」
「そこ置いておいて」
「はい」
保住は熱中すると周りが見えない。
頭を掻いたり、ネクタイを緩めたりしながらパソコンに向かう彼。
多分、聞いていないだろうな。
田口はそう思う。
仕方ない。
さっきの書類を抱えて保住の元に行く。
そして、そっと彼の肩に手を添えた。
「室長、書類見ていただけますか」
田口の感覚にはっとしたのか。
保住は弾かれたように顔を上げた。
「田口か。すまん。聞いていなかった」
「そうだと思いました。この書類、見ていただけます?」
田口は自分の書類と合わせて安齋の書類も差し出す。
「あ、ああ。分かった」
彼はパソコンを打つ手を休めて、田口からの書類に目を通す。
「田口、これ。さっきのと変わっていない」
「すみません」
「もう少し具体的にしろ」
「はい」
さっと返された書類を受け取ってから席に戻る。
「安齋。予算書これでいい」
「了解です」
安齋は立ち上がって書類を受け取り自席に戻ってから田口に耳打ちした。
「すまない。田口」
「いや。別に」
「え?何?何?」
大堀だけが理解できていない。
今の一部始終の顛末。
田口も安齋も特に深く説明する気もないらしい。
お互いに仕事に入る二人を見て大堀は、つまらなそうな顔をしていた。
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