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第2章ー10 好き勝手するな
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「佐々川課長。それは何かの手違いでは?」
『いいえ。ちゃんとお宅の職員が持参してきましたよ』
「そうですか。それは大変失礼いたしました。おれが失念したようです」
『保住くん、大丈夫なの?ちゃんと管理してもらわないと。ともかく、これは破棄。もう一度再考してください』
がちゃりと電話は切れる。
佐々川が絡んでいる案件を担当しているのは安齋だ。
「安齋!」
「はい」
「観光課への書類、どうした?」
「先ほど提出いたしました」
「誰に?」
「佐々川課長に」
保住はため息だ。
「それは破棄処分との連絡だ」
「え?」
「勝手なことをするな。必ずおれに見せてからだ。いいな」
「……はい。申し訳ありません」
思うようにいかない。
パソコンに視線を戻そうとすると、大堀が予算書を持ってくる。
「室長、ここなんですけど、少しアレンジしてみました」
大きくため息。
「アレンジするな。作り直し」
「えー!こっちの方が良さげなのに」
「見てくれで誤魔化すな。予算書にアレンジはいらん」
「はーい……」
しゅん。
落ち込まれたって困る。
能力が高いのも困り物だ。
みんながみんな、好き勝手なことをし始めるのだから。
まだまだ片時も目を離すことはできなそうだ。
自分の仕事は、後回しにするしかない。
頭が痛んだ。
仕事の忙しさではない。
精神的なものの負担が大きい。
「あの、室長……」
おずおずとやってくる田口。
自信なさげ。
こういう時は大概、出来が悪いものだ。
「悩んでいるのか」
「はい」
全く手のかかる男だ。
「どれ。ここに座れ」
田口は、椅子を引っ張ってきてから隣に座る。
彼の担当は、梅沢市と姉妹提携をしている都市で開催される演奏会だ。
「どこまで予算の件を考慮したらいいのでしょうか」
「そんなもの考える必要はない」
「しかし、そうは言っても限度というものがあると思うのです」
保住は苦笑する。
「お前さ。好き勝手やれと言われると不安になるタイプだな」
「好き勝手とは言いますが、大人の社会人ですから」
「そうか。じゃあ、お前が企画しやすいようにおれの頭の中の概算を出してみようか」
「お願いします」
保住は電卓を叩いて田口に見せる。
彼はあぐりとして口を開けていた。
「ご冗談ですよね」
「冗談なものか」
彼は顔を青くする。
「そんな大きな予算の事業を受け持ったことはありません」
「他の事業のことをまだ把握していないだけだろうが、安齋や大堀の扱っている案件も大掛かりだ。そう気負うな。ゼロ2つくらい見なかったことにして考えろ」
「そんな無茶な」
田口は弱った様子で自席に戻った。
そんな様子を見て大堀は、ニヤニヤだ。
彼は財務でもっと大きな金額を扱っていたおかげで、そういう危惧はない。
安齋も星音堂勤務で、大きな予算を扱っている。
田口だけ一部署のちまちました事業を任されていたのは。
そういうことだろう。
まあ、すぐに慣れる。
お金の勘定なんてそんなものだ。
すぐに麻痺するに違いないと、保住は思う。
「午後の打ち合わせだ。おれは席を外すが、お前たち、勝手なことをするなよ」
三人を見渡してから保住は、席を立ったが、なんだか不安な気持ちが拭きれなかった。
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