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第3章ー04 同級生の意味
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「ええ。もし良かったらですけど。それに、おれの作った弁当じゃないからおいしいですよ」
「お前のじゃないなら、もっと食べたい」
「酷いこと言いますね」
「だって、肉じゃが50点って」
「よく覚えていますね。勘弁してくださいよ」
田口はあたりを見渡してから、食堂脇のスペースを指差す。
「あそこでどうですか」
野原はうんうんと頷きながら、田口に釣られて椅子に座った。
「お前の昼は?」
「おれはいいです。食欲ないんです」
「食欲ないって何?」
悩める少年もといおじさん田口を他所に、野原はお弁当を開けると遠慮無く食べ始める。
お菓子を食べている姿もそうだが。
お弁当を食べている姿も、もしゃもしゃとしていて、なんだかヤギみたい。
幸せそう。
なんだか心が落ち着いた。
一緒に持参してきた水筒のコーヒーだけを飲みながら、野原の昼食風景を眺めるのも変なシチュエーションで笑える。
「大変な部署だとは聞いて言いましたが。思った以上に色々です」
「色々って」
そうだった。
曖昧な表現は理解できないタイプと保住から聞いていたのを思い出す。
「同期同士で仕事をすると、色々あるものですよ。お互いが気になりすぎて。協力するどころか、足の引っ張り合いっていうか」
「保住がいるだろう」
「室長も忙しい身です。なかなか管理職の仕事ができなくて苛立っています」
「想像できるな」
「課長、想像力あるんですね」
意外。
そんな顔で見つめると、卵焼きを食べていた野原は顔を上げる。
「想像くらいする」
「なんか。おれの捉えている『想像』と、野原課長の『想像』は違う気がします」
「どう違う?」
「どうって言われても……」
彼と話をするのは、難しい。
槇は、よく彼と時間を共にできるものだ。
「槇さんとは同級生って言っていましたけど。よくずっと一緒にいますね」
思っていることが口にでる。
今度は唐揚げを食べながら、無表情で答える。
「槇は、おれがいじめられていた時に助けてくれた」
「いじめられていたんですか」
「そう」
堂々といじめられっこ宣言をされても、答えようもない。
田口は困惑した顔をするが、野原は気にしない。
「元々こんな性格。気味が悪いって、同級生には、よく言われていた」
「気味が悪いって……」
確かに。
自分もそんな印象を持っていたことを思い出す。
無表情で、何を考えているか分からない。
こうして親しくなってみると、ある程度は理解できるようになるけど。
余程、仲良くなりたいという意思がないと、そこまでの努力をする人はそういないかもしれない。
「気味が悪いって言葉、小さい頃からよく言われていたから。気にしていなかったけど。ある日、槇に言われた。『お前はいじめを受けているんだぞ?自覚しろ』って。それまで気が付かなかった」
「課長……。何て鈍感なんですか」
「鈍感、なのかな」
「槇さんの意見に賛成ですね」
「……」
もぐもぐとしながら、黙って見つめられても困る。
田口はコーヒーを含んだ。
「同級生ってよく意味が分からない」
「え?同級生は、同じ歳の人たちのことですよね」
「そうじゃなくて」
野原は箸を止める。
「たまたま同じ歳。だから何?」
「だから何って……」
そう言われると、よく分からない。
そう問われると、答えられない。
田口はまごついた。
「たまたま偶然に同じ歳に生まれた人間が集められて、毎日顔を合わせる。社会に出れば、同じ歳なんて関係ないのに。どうして子供の頃は、同じ歳の人と仲良くしなくちゃいけないのか分からない」
「そ、それは」
確かにそう。
何の違和感もなくそうしてきた。
同じ年齢で学習すれば、効率がいいからそうさせられている。
だけど、同じ歳だから仲良くしなくちゃいけないって話も変な話で……。
そう。
あれ?
そうか。
「そうですね。それは変だ。今まで考えたことがありませんでした」
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