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第3章ー08 犬、リタイアです。
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夕方。
熱が上がってきたようだ。
気を抜くとぼんやりとしてしまう。
体調が悪化してきているらしい。
大きく息を吐くと、ふと保住が心配そうに田口を見た。
「田口。大丈夫か」
安齋と大堀は、パソコンに向かっていたが、はっとして釣られて視線を向けてきた。
「体調悪いのか」
「どうしたの?田口」
いつもは悪態をつく二人だが、さすがに心配そうな声色を上げた。
「大丈夫です」
「大丈夫そうには見えない。もうすぐ定時だ。先に上がれ」
「しかし」
大堀は、保住を見る。
「室長~。おれも帰りたいです」
「帰れ」
「え~!それって冷たくないですか?」
「どこがだ。おれは残業しろなんていつも言っていない。定時で帰れるなら定時で帰れ」
帰れと言われると帰りたくなくなるのは、どういう心理なのだろうか。
帰れるものなら帰りたい。
保住は内心そう思うが。
田口が「帰れ」と言われるとしょげるということは重々承知だが、体調不良を悪化させられない。
「頼む、帰ってくれ」と視線を向けると、田口はため息を吐いた。
彼の意図をくみ取ったようだ。
「すみません。では、お言葉に甘えて定時で上がります」
「そうしろ。一人で帰れるか」
「そのくらいは大丈夫です」
「そうか」
パソコンを打つ手を止めていた安齋は、苦笑する。
「こんな時期に風邪なんて。裸で寝ていたのではあるまいな」
「そ、そんなことは……」
この前のあれ。
裸エプロン。
笑うしかない。
保住は苦笑する。
「もう。本当に田口ってさ。抜けてるよね」
「大堀には言われなくない」
いつもは険悪な室内なのに。
田口の体調不良に便乗して、共通の話題が出来たおかげか、四人は久しぶりに和やかな雰囲気だった。
「寝相でも悪いのではないか」
保住もからかう。
「室長まで……」
「確かに。寝相悪そう」
「大堀」
からかわれている田口はむっとしてしまうばかりだ。
「おれ、送ってやろうか」
ふと安齋が席を立つ。
「え?」
「?」
「ええ?」
田口。
保住。
大堀は目が点。
この野獣みたいな攻撃性の高い彼が、そんな優しさを見せるというのだろうかと、耳を疑ってしまうのだ。
「な、大丈夫だ。別に。おれは」
「いや。お前の家、そう遠くないのだろう?歩いてくることもあると言っていたよな」
「あ、ああ」
自分の家ではない。
正確には、保住の家なのだが……。
「室長。おれも今日は定時で上がらせてください。よろしいでしょうか」
「あ、ああ。それなら安心だな」
安齋の意図は、分からない。
だが、そう提案されたのであれば、それはそれで断る理由もない。
ちょうど、17時15分になり終業のチャイムが鳴り出す。
他部署でも、帰宅する職員たちが一斉に動き出した。
ざわざわとなっている他部署を横目に安齋は、席を立った。
「ほら。行くぞ」
「あ、ああ……」
田口は縋るように保住を見る。
取って食われそうだが……。
止める理由も見つからない。
保住は苦笑いをして手を振りながら田口を見送った。
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