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第4章ー02 口論
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三か月も過ぎると、三人での会話が減ってきていた。
お互いにお互いを意識しすぎているのだろうか。
それとも気を遣うことに疲れてきているのだろうか。
田口はどちらかと言ったら後者。
安齋は保住の値踏みをしているというが、その判断がいつ下されるのかと思うと、気が気ではない。
やはりいい判断であるといいと思ってしまうからだ。
もし、ここで悪い判断が下されれば、この数年地獄のようなものだ。
多分、安齋としてもそういうリスクも加味しているからこそ、慎重に検討しているに違いなかった。
なにせ市制100周年の年を終えるまで、この四人は固定配置なのだから。
職員同士のいざこざが露呈したとして、異動するということはなさそうだった。
少しずつ形になってきている事業の案。
冷戦状態とはいえ、友好的関係ではない。
何か些細なことで口論になることは日常茶飯事だ。
「おい。ここの企画にそれ入れるなよ。おれの案だぞ」
安齋が大堀を睨む。
「はあ?真似したのはそっちでしょう?おれのほうが先」
大概、事の始まりはこの二人の口論が多い。
ここのところの日常だ。
最初は知らんぷりをしている田口だが、度を超えた場合は仲裁に入る。
この事業の統括をすべく責任者の保住は、外勤が多い。
関係機関との意見の相違が少しでも減るようにと、足を運んでいるのだ。
本来、まとめるべき彼が不在である時間が増えれば増えるほど、能力の高い職員たちは、己の力を過信するものである。
「おい。冷静になれ」
田口の声なんて無視。
大堀は、安齋の書類を覗き込んで更に声を上げる。
「え、ちょっと待ってよ」
「何が待てだ」
ワイシャツを腕まくりしてイライラした表情の安齋は、大堀を見下ろす。
「だって、おかしいでしょう?それ。おれの事業で使わせてもらうはずだった予算だよ」
「そんな話は聞いていない」
「嘘でしょう?この前、室長に話しておいたし」
「あれは本決まりではないはずだ」
「だからって、横取りはないよね?」
だんだん、夏の訪れと共に、盆地特有の湿度の高い気候だ。
そういった不快な環境もイライラを助長する。
目の前で繰り広げられている揉め事を仲裁する気力もなくなりそうな田口は、ぼんやりと二人のやり取りを眺めていたが、そういう問題ではないと我に返る。
「二人とも、冷静に話し合わないか」
「だって、おかしいでしょう?」
口をとがらせて文句を言う大堀。
「文句を言っている状態では、冷静に話し合いなど難しい。今はその件について論議する気はない」
安齋もむっとした表情を隠しきれない。
もう少し冷静な男だと認識していたが。
同期というハードルがよそ行きを装う気力を削ぐのだろうか。
星音堂に居た時は、もう少し大人しく愛想のいい男だと思ったのに。
ここにきてからは終始、言葉もきついし表情もきつい。
これが本来の彼なのだろう。
「そんなこと言って、使い込みして逃げる気だろう!」
大堀は食い下がる。
普通の人間なら、安齋の冷徹な態度は耐えられない。
しょげるところだろうが、彼だってここに選ばれて座っている男だ。
度胸がある。
安齋の冷たい物言いや態度にも臆することなく食ってかかるタイプだ。
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