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第4章ー04 仕事がしたいんです
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午後。
田口一人、星音堂への外勤が入っていた。
こんな雰囲気の時に外勤なんて言っている場合ではないと思うが、そうもいかない。
どんなことがあっても、日々の業務はこなさなくてはいけないのがサラリーマン。
後ろ髪を引かれる思いで田口は、出発した。
「室長。企画の件でご相談してもよろしいでしょうか」
珍しく内勤している保住の元に、安齋がやって来る。
「なんだ」
「おれの担当している企画なんですけど、大堀のサブを外してください」
「安齋……」
保住はため息を吐いてから、田口の椅子を引き寄せて、そこに安齋を座らせる。
「安齋。仕事の割り振りはおれが決める。お前が口を出すことではない」
「しかし。今日の顛末をご覧になったでしょう?おれは大堀とは合いません」
「合う、合わないの問題ではなかろう」
「お言葉ですが、事業に支障をきたしてもいいとおっしゃるのですか」
脅しか。
パソコンから手を離し、背もたれに体を預けた。
「お前はどうしたいんだ」
「どうって……」
安齋は少し考え込んでから、まっすぐに保住を見る。
「仕事がしたいんです」
「お前ねえ」
仕事なら十分している。
いや、十二分だ。
「お前のしたい仕事ってなんだ。お前の思う通りに動いてくれる職員と、お前の思う通りの仕事と言うことか?」
「それは当然の願いではないでしょうか」
「お前ね。それは我儘というものだぞ?」
「何と言われようとも、大堀とは初対面から気が合いません。ここに一緒に選ばれたのだって、人選ミスかと思われます。おれとあいつが並んで仕事をすると言うことは、今後も室長にはご迷惑をおかけしていくと思います」
「正々堂々と言い切るな。そこは譲歩するとか、改善しようという気持ちはないものか?それに迷惑を被るのはおれだけじゃないだろう。田口にもだ」
田口という名前が出て、安齋はますます保住を見つめる。
「室長は、田口びいきが過ぎませんか」
「ひいきしているつもりはない」
自分ではそうならないように意識しているつもりでも、周囲からはそう見られているのか。
保住は声を潜める。
「前職でも一緒で、使いやすいのは分かりますが」
そんな指摘までされるとは。
保住は内心苦笑する。
「確かに。お前たちよりは付き合いが長いからな。そういう印象を与えているのなら、悪いことをした」
「いえ。謝ることではありませんが。自粛していただきたいのです」
「自粛って……」
安齋という男は、簡単に言うと根からの『くそ真面目』。
そして、正論を押し切って来る人間だ。
見方を変えれば、自分にも正論を強いるが他人にも正論を強いるタイプ。
ストイックな感じか。
だから、緩い吉岡に育てられたグレーゾーンが好きな大堀とは根っから合わないのだろう。
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