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第5章ー02 保住がいない一日
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「おはよう」
職場に顔を出すと、安齋が座っていた。
大堀はいない。
「昨日は、すまなかったな」
田口の顔を見つけると安齋は、早々に声をかけた。
「おれは構わないが。室長は休みだ」
「え」
いつも冷静な安齋の表情が曇った。
澤井に書類を出さなければならない日だからだ。
昨日の宿題の添削がしてもらえないということに不安を覚えたのだろう。
「昨日の熱中症か」
「軽いほうだけど、今日は動けないようだ。一日休めばなんとか復活できるのではないかと思う」
「熱中症って。同じ環境にいるのに。おれたちは平気だが」
「あの人、昔から暑い寒いの閾値が高くて感じないから。水分摂らないんだ。おれが一緒の部署になった年の夏には死にかけて入院だ」
「冗談だろう」
「本気だ。澤井さんが病院にすぐに運び込んだから助かったけど。あの時はおれも肝が冷えた」
安齋は苦笑する。
「あの人、優秀なのに抜けていて可愛いところがあるのだな」
安齋の口からそういう感想が出るのは、好ましくない。
田口は内心むっとするが、顔にも出るのか。
安齋はそれを見て、更に苦笑する。
「お前は、本当に室長好きだな。室長もお前びいきだ。相思相愛ってところだな」
「何が言いたいんだ」
「いや。別に」
安齋は意味深な笑みを浮かべてから、咳払いをする。
「それより、どうするかだな」
「澤井副市長との件は、おれが一任されている。おれは、安齋よりも澤井副市長との付き合いが長いから、少しは好みを心得ている。安齋の書類、不本意かも知れないが、おれに見せてくれ。副市長のところに行くときもおれが付いていくから」
断られるかな?
そう思うが、安齋は妙に素直だった。
「悪いな。田口」
「あ、ああ。別に」
何だか肩透かしだが、頼られるのも悪くない。
田口は自分の席に座るとパソコンを開く。
と。
「おはよーございます……」
語尾が消えかかったような状況で大堀が顔を出した。
彼もまた、顔色が悪い。
バツが悪そうだ。
昨日の早退を気にしているのだろう。
「遅いぞ。大堀。仕事たまっている」
田口は、入りにくそうな大堀に声をかけてみる。
すると安齋は、しらっとした顔をして言い放った。
「本当だ。この役立たずが」
「な!」
安齋にも悪態をつかれて大堀は、むうむうと怒りながら自席に座る。
「何だよ~。ちょっとは心配してくれてもいいじゃん。室長だけだよ。メールくれたの」
そうなのか。
保住は素知らぬふりをしていても、きちんと大堀のフォローをしているらしい。
「残念でした。大堀くんの味方の室長は今日はお休みです」
安齋の言葉に大堀は目を見開く。
「え?」
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