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第7章ー21 猫の逆襲
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ちょっとした悪戯心だったということは言い訳だろうか?
安齋は、まさかここまで田口が体調を崩すなんて思ってもみなかったのだ。見た目が頑丈そうだったので、突いても平気だと思った自分の見積もりが甘かったようだ。
自分で仕掛けておいて、内心、焦燥感に駆られている安齋は、仕事にもそう手がつかない。仕事をしているふりをして、彼の容態に意識が向いていた。
病院から先に帰ってきた大堀は「胃痙攣だって」と言った。彼の説明ではストレス性のものではないかと医師が言っていたとのことだ。
こんな短時間で胃が不具合を起こすことなどあるものだろうか? と疑ったが、次に戻ってきた保住の様子を見た限り、状況は思わしくない様子だった。
保住は戻ってきてから終始不機嫌そうな表情で仕事をしている。声をかけるのもはばかられるような雰囲気だった。
四月から一緒に仕事をして、彼の色々な面を目の当たりにした。副市長とさしでやり合うくらい仕事が出来る一面。飲むと子供みたいに無邪気に笑う一面。田口を大事にしている優しい一面。しかし今日の彼はいつもとはまた様相が違っていた。
感情が乗らない顔つきは、無機質で作り物の人形みたいだ。何人たりとも近づけぬような冷たさ。先ほど自分の手を振り切って出ていった時も感じた。静かに憤慨するとでもいうのだろうか——?
そんなことを考えていると、終業を知らせる鐘が鳴った。それと同時に保住はパソコンの電源を落とした。
そのしぐさを合図に、ふとその場の雰囲気が緩む。大堀は肩の力を抜く。安齋もふと保住に視線を遣った。それと同時くらいに、彼は二人に視線を寄越した。
「おれは田口を迎えに行く。点滴が終わっている頃だろう」
大の大人だ。「迎えに行く宣言」は違和感しかない。逆に堂々とそう言い切る保住の心中が理解できずに怪訝な表情しかできないが、大堀はそのまま素直に受け取ったのだろう。
「あ、了解です」と軽く返答をした。
二人が自分を注視したことを確認したのか。保住は唐突に切り出した。
「お前たちに言っておくことがある。お前たちはおれが、田口をひいきしていると見ているが——」
「え~、そんなことは……」
単刀直入な物言いに、さすがの大堀は腰が引けているようだ。心で思っていても保住に直接ぶつけたことのない話題だ。
——田口には言うくせに。臆病者。
安齋はそう大堀をバカにしている。堂々としていればいいのだ。本当のことだからだ。
大堀は必死に言い訳まがいに言葉を濁していた。しかし次に保住が発した言葉は、安齋をも度肝を抜かせた。
「いいや。それは事実だ。確かにおれは田口をひいきにしている」
「え——!?」
——言い切った?!
大堀は目を見開いて驚愕の表情を浮かべていた。かくいう安齋も、動きをとめて「信じられない」とばかりに保住を見据えた。保住は田口を可愛がっていると言い切ったのだ。
更に保住は、部下二人の反応などまるで無視。しれっとして言葉を続けた。
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