アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
雪 1
-
一緒に生活を始めて二週間。
最近少しずつ、少しずつゼロの行動に慣れ始めている。
ベッドに潜り込む彼を毎朝怒るのも面倒で、手を繋がれる事も諦めた。
骨張った手、強く絡む指。
悔しいけれど自分よりも一回り大きくて。
結局拒む事ができず、今日も家の近くまで帰って来てしまった。近所の噂になったらゼロのせいにしてやろう、と思っていたら、突然後ろから声をかけられた。
「あら、おかえり。スズ、零君」
「か……っ」
紛れもない母の声に振り返り、慌てて手を振り払う。そんな鈴とは反対に余裕のあるゼロは、微笑んで挨拶を返す。
「実春さんもおかえりなさい」
「ただいま。手繋いで帰って来るなんて、貴方達仲良いのねぇ」
極めて平素を装いながら買物袋を受け取ろうとしたのに、渡す時に微笑ましく痛い所を突く実春のせいで、握った袋を落としそうになった。
「や、別に、これは……」
「今日寒いな、って鈴と話してて」
珍しく動揺する鈴の声にさりげなく被せる。気転を利かせて話題を反らしたのは成功したらしく、実春も空を見上げて賛同した。
「そう言われればそうね。春だっていうのに、今日はちょっと寒いもの。梅雨が近いからかしら」
そう言いながら母が家の鍵を開け、家の中へと入っていく。
「有難う、助かったわ。温かいの用意しておくから、着替えてらっしゃい」
「有難うございます」
荷物を冷蔵庫の近くへ置き、二人は二階の部屋へと向かった。
自室を開けた瞬間、中の冷たい空気が流れる。肌寒いと言うより、キンっと冷えた感じ。後ろにいるゼロは、立ち止まった鈴が微かに肩を震わせたのを見逃さなかった。種族もあってか、体質的に暑さにも寒さにも強いゼロには分からない。
「寒いのか?」
「……少し」
中へ入って適当に鞄を置き、いつも通り私服へ着替えようとする。しかし、ゼロとは逆に暑さにも寒さにも極端に弱い鈴は、着替えるのも億劫になって。
机の横に鞄を置いて、ストンっとベッドへ座ってしまった鈴を気にしてゼロが近付く。
「どうした?」
「別に……」
正直、急な気温の変化についていけない。自然と口数が少なくなる。
「寒い?」
もう一度同じ事を聞かれ、今度は素直に小さく頷いた。頷いたまま俯く鈴の頬に触れる長い指。
「ホントだ……鈴、冷たい」
その手で触らないで欲しい。
穏やかに笑うゼロの素直な気持ちが流れ込んで、俺の気持ちを持ち去ってしまいそうで。
──どうしよう……安心する……
「大丈夫か?」
「……ああ、大丈夫」
温もりに惹かれるように目の前のゼロに頭を預けると、そっと身体を抱き締められた。次第に温まっていくお陰で強張りが解け、同時に冷静になる頭が甘える行動に羞恥を呼ぶ。
首筋にかかるゼロの吐息がくすぐったい。
「……離せ」
「寒いんだろ?」
「着替えるから」
「はいはい」
照れ隠しに出るワザと抑えた口調に、ゼロが苦笑して身体を離す。
ゼロから感じる空気が痛い。
好きだ、と全身で伝える彼に、次第に侵されてく感覚。
──……おかしいだろ……男同士なんて
ぼんやりと考えながら下を穿き替え、制服をまとめて壁のハンガーに掛けてパーカーを羽織る。
「鈴ってジーンズ穿くんだ」
着替え終わってその声に振り返ると、ゼロが珍しそうな視線を向けていた。今まで細身のカジュアルパンツ姿を見ていたから新鮮だ。ジーンズは黒っぽい色で、これも似合ってると思う。
「千鶴が、少し大きくて合わないからって」
ゼロの考えていることが分からず、視線が居心地悪いのか、そう言って気まずそうに自分の格好を見回す。無頓着そうに見えて、意外と気にするらしい。
「何か可愛いなって」
そのゼロの言葉に少しムっとする。似合ってないと誤解される前にと伝えた言葉のせいで小言が始まりそうな雰囲気に、慌てて言い訳をした。
「や、可愛いって言われるのが嫌いなのはわかってるけどさっ」
言えば言うほどそろそろ鉄拳が飛びかねない鈴を、言葉だけでは伝わらないと抱き寄せた。
「ゼ……っ」
「好きなんだから……仕方ねぇじゃん」
耳元で恥ずかしげに囁かれ、自然と頬が熱くなる。早まる鼓動が伝わる気がして、強く身体を押し返した。
「嬉しくないっ」
顔を反らす勢いではっきりと言い捨て、ゼロを横切って先に部屋を出ていく。リビングに着くまでにドキドキとする心臓を抑えるのに必死で、後ろからついてくる彼を振り返る余裕なんてなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
10 / 65