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嘘
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学校からずっと横抱きで互いに無言のまま、まだ誰も帰っていない家に着いた。鈴は制服の内ポケットから鍵を出して手を伸ばしたが、その鍵をゼロが取る。
「いい、俺がやるから」
短くそう呟き、鈴を抱いたまま鍵を開ける。視線だけを向けて彼を見るが、いつもの表情豊かなゼロではなく、表情がないせいで感情が読めない。
怒っているだろうか。
呆れているだろうか。
どちらにしても良い感情を抱いてるはずもないのは雰囲気で分かる。
視線を落とし、部屋に運ばれて行くのに従うだけ。階段を上がる音も、ドアを開ける音も虚しく響く。揺れる度に溢れてくる液が気持ち悪くて、でもそれを悟られたくはないから声を殺した。
ゆっくりとベッドに下ろされ、ゼロの手が離れる。俯いたままで鞄が粗雑に置かれた音をぼんやりと聞く。
「……鈴」
呼ばれたら俯いている訳にもいかず、ゆるゆると顔を上げた。ゼロはこちらを直視せず、俯き加減に問う。
「矢崎と、何かあったのか?」
「っ……ど、して」
「鈴の身体からアイツのニオイがする」
まさかそこまで分かるのかと驚いたが、ニオイの違いを判別するなど簡単なんだ。
彼が確信を得られた今、誤魔化すのは無理で、後残すは──嘘。
口を閉ざした鈴の前にそっとしゃがんだゼロに顔を覗かれ、心配げに細められた瞳から逃げたくなる。
「何された?」
「……何で、お前に言わなきゃいけない」
言えない。
言いたくない。
その思いが強く、感情を殺して放った声は案外冷たく響く。それは視線の先で目を見開く彼からも分かって、そのまま言葉を続けた。
「ゼロと……付き合ってる訳じゃないから……」
「でも、矢崎はただの後輩だって」
「それが何の関係がある」
「お前……俺の気持ち知ってて言ってんのか……っ」
「俺とアイツがどんなだろうが、ゼロには何もできないっ。放っておいてくれ!」
「んだよ、その言い方。矢崎なら良かったって言うのかよっ!?」
「だったらさっさと俺の血を吸えば良かっただろ!? そうしたら俺は、お前のモノだった」
尚も食い下がるゼロに声を荒げてしまい、お互いに言いたい事はそうじゃないのに、売り言葉に買い言葉になってしまう。言い合いながら、傷付いて哀しそうな顔。
しかし、ゆっくりと瞬きをしたゼロが無表情へと変わった。
「ああ、そうだな。そうしたらアイツに盗られなくてすんだんだもんな」
「……ぅっ!?」
静かに声をかけられたと同時に両手首を掴まれ、勢い良く身体を押し倒された。頭上で留められた手首は片手で押さえ、弱った身体は簡単にねじ伏せられる。
「何の真似だ、ゼロっ」
「後始末もされねぇで、気持ち悪いんだろ。出してやるから黙ってろよ」
抗議をする鈴に冷たく言い捨て、器用にベルトを外しスラックスごと下着を脱がしていく。それを動かない足に引っかけ、露になる身体を見下ろした。
濡れた太股の内側には鬱血の痕。
「ぁ……っ」
双丘の奥へ指を伸ばし襞に指先が触れると、鈴が小さく反応を返す。感じたのではなく痛みでなのは、表情ですぐ分かった。そこで無理矢理挿入はせず、一旦離した指を口に含む。傷を付けないよう唾液を絡ませた指を優しく挿入し軽く抜くと、つられて白濁もトロっと流れ出る。
「ふ……ぅ、く……っ」
何度も抜き差しをされている感触に身体が震える。傷口が開いた訳ではないが、染みて痛い。
でもそれ以上に先程の光景を思い出して怖い。
ゼロが最後の滴を出した時、鈴は顔を反らして泣いていた。
「……頼むから、もうやめてくれ……っ」
瞼を強く閉じて堪える鈴の頬を撫でて涙を拭う。それでも強張りが解けない姿に、気付いてやれなかった後悔と苛立ちで唇を噛んだ。
「……泣くぐらいなら、何で叫ばなかった……。何で呼ばなかったんだよ」
低く吐かれた言葉に、ビクっとゼロを見上げた。
ゼロ自身八つ当たりだと分かってる。だけど、はっきりと抵抗をしない鈴を見ていると、矢崎にも同じだったのではないかと思う。
俺を思い出していたら…。
自分に助けを求めなかったのが悔しい。
いや、本当は矢崎が好きなのではないだろうか。
手首に傷がないのは、激しい抵抗をしていないからなのか。でも、鈴の反応は犯されたも同然。
少しでも感情を探ろうと見下していたが、息を飲んでこちらを見ていた鈴の瞳が伏し目がちに反らされ、ゼロは長く震える息を吐いた。
「風呂……入れば」
頑なに黙っている鈴を待っても埒があかないと判断し、そっと身体を抱き上げた。学校から帰る時、何度か顔をしかめていたのに気付いていたから、極力腰に負担がいかないように支えて。
鈴にもそれが伝わり、優しくされるほど嘘を吐いている事が辛くなる。
──早くこの腕の感触を忘れたいのに……
その思いとは裏腹に身体は手放したくないと縋るが、脱衣所に着くとそっと下ろしてゼロは出て行った。一人残された鈴はいつまでもそこにいる訳にはいかず、衣類を脱いで足を引きずりながら浴室へと入る。ボタンを押して蛇口を捻れば、勢い良く飛び出したお湯が肌を叩いた。感覚を掻き消すほど強く、強く。頭上から注がれるシャワーの音が聴覚を遮るが、何も考えたくないと思うほど、身体の痛みが思考を奪う。
「……くそっ」
悔しくて下唇を噛み締め、震える吐息を吐き出す。不意にカタンっと扉から小さく音がしたのに気付き、振り返ればドア越しに座るゼロの背が透けて見えた。
ただ何も言わずそこにいるゼロ。
「……ゼロ」
謝りたい事も伝えたい事もいっぱいあるのに、口からひとつも出てこない。鈴を心配して怒っている彼にかける言葉を見付けられない自分が歯がゆい。
ならばいっそのこと、完全に離れてしまえばもう傷付ける事を考えずに済む。
「ゼロ……聞こえるか?」
自分もドアの前に座って、ガラス越しに声をかけた。手を当てると、微かだけどゼロの体温を感じる。未練がましいと思いながらも、手を当てたまま暫く返事を待った。
「……俺、鈴の事ちゃんと見てるつもりだった。何をしたら笑うとか、どうすれば安心するとか」
ポツリと話し始めたゼロの言葉の純粋さ。
それから迷い。
「……でも今、鈴が何考えてんのか分かんねぇ」
多分、ゼロの背中にも鈴の手の体温が伝わってるだろう。だからこそ、鈴が何を考えているのかが分からない。
「俺は……」
早く言ってしまえ。
言えばゼロは離れていくから。
冷静になれば、男に犯された俺の事なんか軽蔑する。
今までなら殴ってでも拒絶していたのに、ゼロという存在に甘えて弱くなった自分など彼だって興味をなくす。
出逢ったばかりの頃の強い自分など、今はいないのだから。
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