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「ちょっと今浮かれモードだから、暫く許してよ」
な? と有無を言わさぬ笑顔で確認をするゼロに笑みで答える。
長い間おあずけを食らわしていたんだから、これぐらいは許容範囲だろう。ゼロも言った通りそれ以上は手を出してこず、再び道路に戻って家路につく。
「明後日はデートで、夏休みは応援か」
「どうした?」
「いや、鈴から誘ってもらった約束が嬉しいだけ」
「……っ」
突然予定を反芻するゼロに問うと、へらっとだらしない笑顔と真っ直ぐな言葉に顔が真っ赤になる。
素直に「好き」と言えない俺とは逆に、いつもストレートに伝えてくるゼロ。だから好きと告げる代わりに、自分から約束を増やす。
「約束いっぱい増やそうな」
教えてはいないけど、こうしてゼロが喜ぶなら成功しているのだろう。ただ、返事を口にするのが恥ずかしくて、答えの代わりにそっと体温の低い手を取った。
テストを目前に控えた約束の土曜日。
出かける準備をしていると、「頭の良い人達は余裕で良いですよね」と勉強で潰れる千鶴に嫌味を投げられた。かく言う彼女も松原と一緒にいられるし、からかうつもりで言ってるから笑って頭を撫でる。
「誠一に迷惑かけるなよ」
「分かってますー」
今週だけでなく、ずっと千鶴の勉強を見てくれている幼馴染みに感謝をしつつ、どうしても頭はゼロの方へいってしまう。ちらっと視線を上げると偶然合って、小さい笑みを向けられたら頬が熱くなるのも仕方ない。
隣に立つ彼は白無地のタンクトップに黒の七分袖のテーラードジャケットで、ブラックデニムのジーンズ。首元も少し長めのチョーカーだけなのに。
──何だろう……モデルみたい
シャープなイメージで色気があり、恋人の欲目なしでも格好良い。
絶対、注目されるだろうな、と考えていると、背に手を添えて促された。
「じゃ、行ってくんな」
「うん、楽しんできてね!」
「行ってきます」
満面の笑みで妹に見送られ、少し照れながら家を出る。
あれからまだ行き先を決めておらず、道中「どこに行きたい」だとか話すのが楽しい。結局、最初は近場の二駅隣にある巨大ショッピングモールに決めた。
当初の目的はゼロの洋服を見る事だったのに「別に良いよ」と言って、映画を見たり、ゲームセンターへ行ったり、いわゆる普通のデートみたいで。今もUFOキャッチャーを見て回るゼロの瞳が子供のように輝いて、正直可愛い。
──可愛いって、俺が思ったって良いよな
可愛いの種類が違うのが悔しいけど。
「お、これ千鶴ちゃん喜びそう」
ゼロの声で鈴もUFOキャッチャーに目を向ける。ガラスの向こうにあるのは、小さい王冠をかぶった白兎の縫いぐるみ。全長45cm。
「……でか」
「でかいよなぁ」
二人でしみじみ呟いて見つめていると、ゼロが財布を取り出した。
「取れるのか?」
「やってみなきゃ分かんないっしょ」
どこかワクワクした口調で答え、とりあえず一回分の小銭を入れる。
縫いぐるみ用の大きなアームが動き、狙った場所に止めると、自動で落ちていくのを見つめながらゼロが「あと一回だな」と呟く。まだアームが景品に当たってもいないので半信半疑だったが、彼の言う通りぐっと押された縫いぐるみは、サイドの支えに辛うじて挟まっている状態になった。
「な?」
「嘘……」
大きい上に丸っこいのでまさかここまで動くと思っていなかった鈴は、思わず本音が零れる。食い入るようにガラスの中を覗く鈴にクスっと笑って追加分を投入したゼロは、宣言通りその一回で簡単に落とした。
「ほら」
大きい取り出し口から縫いぐるみを取り、渡してくるゼロから抱えて受け留める。手にしてみるとずっしりとした重量感に、改めてすごいなと思う。
「……こういうのもちゃんと取れる物なのか」
「ま、アームしっかりしてたし、元々ちょっと動いてたからな」
「いや、でもすごいよ」
ちょっと素直に感動。こういうのは金食い虫だと思っていたから。
胸に抱えて持ち、まじまじと縫いぐるみを覗いていたら
「あー、何か今レアな光景」
「はぁ!? バカじゃないのか」
手でフレームを作って、その間から見つめてくるゼロに悪態をついて視線から逃げる。照れ隠しとバレバレな反応が面白かったのか、笑いながら満足げに手を解いて「ちょっと待ってろ」と言い残し、店員の所へ行ってしまった。
──冷静になると、バカップルみたいだな……今のは
我に返ると同時に様子を窺っていると、どうやら袋をもらいに行ったらしく、受け取る時に照れ笑いを浮かべた彼に首を傾げる。袋を手に戻ってきたゼロの一言で理由は分かったが。
「彼女さんにプレゼントですか、だって」
「かっ、かの……っ」
その言葉にぶわっと顔が赤くなると同時に、軽く気分が凹む。
「……そんなに男に見えないか?」
「まぁ、女装したら分かんないぐらい綺麗な顔はしてるわな」
「肯定するな」
予想通りの返答とはいえ、反論は出てしまう。当然胸はない訳で、彼女だと思われている今、ここで袋に縫いぐるみを入れて先程の店員と鉢合わせたら絶対に気まずい。
「やっぱりいい。持ってる」
「え? 意外と重量あるぞ」
「平気だから。ここ出たら渡す」
袋を開いてくれた彼にそう伝えると、不思議そうな顔が納得に変わった。
「別に気にしなくても良いのに」
「……うるさい」
畳みながら言われた言葉は分かるけど、やはり気にはなる。きっと“彼女”の部分を否定はして来なかっただろうし。お互いに気まずくなるのは避けたい。
──それにゼロが取った物だし
だから持っていたい、というのもあるがそれは内緒。
店内にかかる景品ゲットのアナウンスに気分を良くしつつ、またUFOキャッチャーのコーナーをぐるっと回った。
結果は白兎も合わせて四個。
「ゲームセンター荒らしだな」
「ふっふっふっ、狼は狩りが得意なんだぜ」
「千円でこれだもんな……」
お店を出て袋の中を覗いて呟く隣で得意げなゼロ。
二回やれば大概の物を落とせてしまうから、店員が補充のために自然と近くについていたり、最後は近くで覗いていた女の子の分まで代理で落としてあげていた。確かに狙いを定めるという点で、狩りと似てるだろう。
ガラスの中を覗く真剣な眼差しを思い出し、自然と頬が熱くなる。陽が暮れ始めた今は周囲も気付きはしないが。
「あれ……もう何時だ?」
「えーと……7時過ぎだな」
「もうそんなか」
ふっと時間が気になって呟けば、確認した声が返ってくる。夕食までには帰ると言ってあるし、そろそろ帰ろうか、と考えている内に空は暗くなって照明が足元を照らす。
「帰ろう」
不意に縫いぐるみの袋を取られ、キョトンとしてる間に空いた手を繋がれた。流石にこんな人が多い公の場で繋いだ事がなかったから慌ててしまう。
「えっ、あのっ、ゼロ……っ」
「駅までだから。明るくなるまで良いだろ」
言葉よりも瞳の方がお願いと訴えていて、それに弱い鈴は諦めて素直に従った。
「初デートぐらい甘くいきましょうや」
「ばぁか」
隣に並んだのがよっぽど嬉しかったのか、冗談っぽく言うゼロに、こちらも照れ隠しに冗談っぽく返す。その代わり手をぎゅっと握って、寄り添うように距離を縮める。
ゼロの体温は低いというより冷たい。
梅雨の時季はあんなに温かかったのに、と思いつつ、本能なんだろうなと納得もする。
「……熱くないか?」
「えー、全然。何で?」
平均より体温は低いとは言え、人間の生存体温は熱いのでは、と問い掛けた。その理由を問うゼロがこちらが教える前に気付き、「ああ、これ?」と繋いだ手を上げる。
「俺が勝手に冷たくなってるだけだし、本音言うならこうしてる方が良いんだ。体温思い出せるから」
そう言う彼がどこか切なくて。
──そんな顔して言われたら、離せなくなるだろ……
「鈴?」
「家までこれで良い」
「え、でも」
「今日は初デートで、俺は彼女なんだろ?」
ピッタリ寄り添う鈴に驚くゼロを上目遣いで見つめて告げる。幸いゆったりめのカーディガンを羽織っているから大丈夫。
思わぬ申し出にゼロが頬を緩ませた瞬間
「っ!?」
急に笑みが消え、血相を変えて後ろを振り返った。
あまりにも突然で、辺りを睨み付ける彼の視線を辿って振り返るも誰もいない。
「ゼロ?」
首を傾げる鈴に我に返ったゼロは、「……ああ、何でもないよ」と笑いかけて歩き出す。そんな彼に問いかけるタイミングをなくしたので、そのまま深く考えるのをやめてしまった。
俺はこの時、彼に隠された不安も、この先起こる波瀾も分からなかった──
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