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「あの子の正体を知って尚、お付き合いを?」
「……はい」
「怖くはないの?」
「ゼロは、優しいですから」
「ふふ、そんなところまでラナンにそっくり」
──ラナン?
不意に聞き覚えのない名前が耳に入り、言葉が詰まってしまう。その鈴の様子に「ゼロの過去までは知らないのね」と呟いた。その言葉に無意識に息を飲んで俯き、先程から胸を叩く漠然とした不安が強くなる。
「あの……俺の家族は彼の正体を知らないんです。それに今、時川零って名乗っていて」
「そうなの。でも安心をして。貴方にしか用はないの」
「そう、ですか」
「弟の婚約者に会いたかっただけよ。他の方には手を出さないわ」
少し引っかかる内容だが、それを気にかける余裕もなく、踵を返すリグレットを見つめる。
「今日のところはお暇するわね。私が来たことはゼロに内緒にしておいて下さる?」
「あ……分かりました」
「じゃあ、また。今度はゆっくりお話ししましょう」
それだけ言い残しひらりと手を翻して去っていく背中を見送りながら詰めた息を吐き出そうとした瞬間
「鈴?」
不意に呼ばれて弾かれたように振り返ると、ゼロがキョトンと首を傾げて後ろに立っていた。反射的に彼女が向かった先を振り返るも、忽然と姿を消していて。
──……頭がパニックを起こしそうだ
はぁと重たい息を吐き出し、鈴の奇妙な行動に不思議そうな表情で窺っている彼と改めて向き合う。
「おかえり、ゼロ。早かったんだな」
「あ、おう。文化祭が近いとかで、今日は部活もミーティングだけって」
「そうか」
「鈴は? こんなとこで何してんだ」
「いや……大した事はないんだ。今日、本が発売だったなって」
「買いに行くか迷ってた?」
「そんなとこだ。でも家に着いたから、面倒になって」
「はは、鈴でもそんなことあんだ」
近付きながら言葉を交わすゼロが笑って頭をポンと撫で、家に入るのを促す。それに素直についていき、彼が玄関を開ける前にギュッと手を掴んだ。
ただゼロのぬくもりを感じただけで安心する。言えないけど、安心したい。
様子を一瞥して確認したゼロは俯く鈴に何も言わず、玄関を開けて中に入れられたと思ったら、腕を掴み直されて強引に引かれたまま階段を上がる。
「おい、ゼロ……っふ」
自室に入るなり閉じたドアに押さえつけられて、ゼロにキスをされた。優しい熱さに涙が出そうになって、押し付けられた反動で入れていた手の力を抜くと、拘束を解いた彼の手が指を絡めて繋がれる。
「……何が不安なんだよ」
「ゼロ……」
「言わなきゃ分かんねぇだろ」
ドアとゼロに挟まれて、身動きできずに間近で彼の顔を見つめれば、真剣な眼差しでこちらを見ていて。
──……駄目だ……言ったら駄目……
自分が余計な事を言ったせいで、姉弟の関係がこじれるのだけは避けたい。彼女が何を目的として自分に近付いているのかは分からないけど。
「……今、ゼロの傍にいるのは“俺”か?」
「何、言って……」
気持ちとは裏腹に口が無意識に動き、目の前で驚いた彼の表情でハッと我に返った。空いた手で口元を押さえ、軽く俯いて視線を反らす。
──何か言わないと……
「いや、何か役と同調しててな。頭いっぱいなんだ……悪い」
苦し紛れに吐いた嘘はきっとゼロにはお見通しだろうが、彼はそっと髪を梳いて胸に頭を抱き寄せた。
「今、俺の前にいるのは紛れもなく鈴だ。俺が大好きな、水無森鈴だよ」
トントンと心音に合わせて優しく背中を叩かれると安心する。
繋いだ手には指輪の感触。
メア家の血。
純血と混血。
俺はちゃんと、ゼロの全てと向き合って、支えてあげられるのだろうか……──
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