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罠 1
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「鈴、今日本当に大丈夫か?」
先程から繰り返されるゼロの問いに、変わらず「大丈夫だ」と答える。
今日は朝から熱っぽい。かと言って、ダルさがある訳でもないし、喉も痛くはないので登校すると答える鈴に、渋々承諾するゼロ。そんなやりとりが今朝から続いている。学校に着いてからも訝しむゼロの様子に、こっそりと溜め息を吐いた。
ただ、鈴だって何となく違和感は感じてる。普段の風邪みたいな症状とは違う。何だか身体の芯がジンジンするような熱さだ。
──雨に打たれたのは関係ないのか……?
昨日、ゼロに触れてからおかしい。
嗅覚が過敏になってるみたいで。
「水無森」
「っ!? あ、はい」
授業も集中できず、不意に教師に呼ばれて我に返り、意識を黒板へ戻す。驚く鈴同様、教師も珍しい反応にキョトンと首を軽く傾げる。
「どうした、具合でも悪いか?」
「……いえ、大丈夫です」
「じゃあ、前に出てこの問題を解いてみなさい」
「はい」
確認の言葉を否定して立ち上がった瞬間、ドクンッと強い鼓動を感じ、膝から崩れ落ちた。寸でのところで隣のゼロに抱き留められ、その熱や香りに再び強く鼓動を打ち「ぅ……っ」と声が漏れる。
その声でゼロには伝わった。
鈴が発情してる事に。
幸い、周りの生徒には鈴の様子が見えず、ゼロはさっさと身体を横向きに抱き上げる。
「時川、水無森は大丈夫か?」
「すいません、本当はコイツ朝から熱が出てて」
「そうか、早く保健室に連れて行きなさい」
「失礼します」
全員の視線から隠すように上半身を自分へ寄せるゼロが教師と言葉を交わしている間も、鈴は埋めた彼の首筋からの香りで息が荒くなっていくのに耐えている。体温も上がっているのは手のひらから伝わっているようで、授業中で静かな廊下に急ぐ靴音が響く。
こんな状態で保健室へ行ったところで、何の解決もしない。
耳元に口を寄せて、彼の意識をこちらへ向けた。
「ぁ、ゼ……ゼロ……」
「どうした?」
「屋、上……行って……」
鍵は常に制服のポケットに入っているし、使用制限のある屋上にわざわざ授業中、教師が見回りに来る心配もない。鈴の提案通り、屋上へ進路を変更して、響く音に注意しながら目的の場所へ出た。念のため再度施錠をし、校庭から見えない位置に身を寄せる。
「大丈夫か?」
「……ぁつい……」
地面に下ろした鈴を見下ろして様子を窺えば、虚ろになりかけた瞳から理性と本能に揺れているのが伝わって。
ゼロは目の前にしゃがみ込み、顔を真っ直ぐに見て問う。
「鈴、怒らないから正直に答えて欲しい」
「ん……?」
「俺の姉貴に……リグレットに会っただろ」
「……っ」
ストレートに問われて息を飲む鈴の反応は明らかに肯定で、ただ、答えて良いのか迷っているようだ。
恐らく、彼女に口止めでもされているのだろうと予想が付く。以前、自分も「仲が悪い」と言ったから。
「鈴、怒らないから」
「……会った」
上気する頬を優しく撫でて促すと、ピクッと反応を見せて素直に答えた。薄く涙の浮かぶ瞼にキスを落とし、殊更優しい声で続ける。
「何された?」
「キ、ス……され、た……」
「やっぱりそっか。その前からおかしいと思ったんだよ」
「ゼロ……ごめん……俺」
「鈴が悪いんじゃない、大丈夫」
抱き締めて髪を梳く指にも身体は反応をして、でも強い理性が意識を留めている。ゼロが何か分かっているなら、状態を説明して欲しい。縋るような眼差しを向けると、もう一度、目を合わせて口を開いた。
「鈴は今、発情と同じ状態になってる。お前、満月の日の俺を見てるだろ? あれと似たようなもんだ」
「発、情……?」
「自分の気を混ぜれば、吸血鬼の唾液は媚薬にもなる。相手をそれで惑わせて、自分のものにするためだ」
フェロモンと同じだろうか。それを唾液に混ぜて飲み込ませるために、リグレットはキスをしてきた。
──目的は一体……
彼女は自分を本気で欲しがってはいない。
絶対に目的は他にある。
それはきっとゼロな気がして、何か嫌な予感がする。
「普通は即効性なんだ。だからお前の様子にすぐに気付かなくて」
「え……でも……」
「鈴の理性が強いか、あるいは俺と繋がってるからか」
「なら……後者だ。お前に、触れてから……おかしい……」
それは確信を持って言える。ゼロが近付くごとに、ニオイを感じる度に、血が沸騰したように熱い。
これほどまでに自我を持っていかれそうになるのは初めてだ。
その言葉を聞いたゼロが小さく頷き、汗で張り付く髪を梳いて顔色を窺う。
「だったら、俺ので効果が消えると思う。ただ、ここだと……家まで保つか?」
「ゃ……無理……っ」
家までなんて悠長な事は言っていられない。学校でする事に羞恥や引け目を感じる理性が、身体を焼くような熱に覆われていく。
無意識にゼロの胸倉を掴んで引き寄せ、噛みつくようにキスをする。鈴の切羽詰まった吐息にゼロも承諾をして、色素の薄い髪に指を絡ませ、角度を変えて何度も深く口付けた。
──ダメだ……もっと……
いつもされるだけで充分なのに、自分から触れないと満足できないほどに身体が渇いてる。
ぐっと逞しい肩を押すと、油断していたゼロの身体は簡単に揺れて体勢を逆転できた。壁に背を当てた彼は驚いてるようだが、それに構わず元々大きく開いた襟に手をかけて首筋に顔を埋めて啄む。甘い匂いが口腔に広がり、それを何度も繰り返す。
そこにクスクスと笑う息遣い。
「鈴にされる日がくるとは思わなかったな。でも」
一度そこで言葉を止め、耳元で「二人でしよっか」と囁かれる。
これも彼の優しさ。
緊張を解そうといつも通りにしてるのが分かって、夢中になって頷く。それから鈴も耳元に口を寄せ
「……ゼロ……して……っ」
荒い息の中に言葉を乗せて返事をすると、優しく首筋にキスを落として背中に回された手が身体を滑っていく。腰のラインを辿って鈴のブレザーのボタンを外し、しまっていたシャツの裾を出してそこから手が中に入り込む。
首筋に愛撫を受けながら肌をじかに撫でられる感覚に背筋が粟立ち、ギュッと彼のシャツを握り締めた。いつものゆっくりとした前戯ではもどかしくて、もっと強い刺激が欲しい。
「ん……こっち……に、ほし……ぃっ」
ゼロの手を取り、先程から痛む熱に導く。
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