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憤怒のこもった息を噛み殺し、真白は間近にあるαの男の顔を睨みつける。αの男は目元を和ませる。真白の怒り狂った顔でさえ、好ましくて仕方ないと言外に表すかのように。
「…真白。もっとよく顔を見せてごらん。」
αの男の、あの大きくて分厚い手が真白の片頬をそっと撫でる。上辺だけを指先でたどるような動きに、擽ったい反面真白はぞっとした。
「…八年前は由良真白だったよな。苗字が変わった。叔父さんに引き取られてからか??」
真白は涙に潤んだ瞳で、こくりと頷く以外できなかった。αの男は満足そうに短く息を吐く。
「…真白。」
真白は顎を掴まれ、無理矢理αの男の方に目を向けさせられる。顎を壊す気か、と思うような強い力に非力なΩは抵抗できない。
「どこに逃げようと、隠れようと、必ず追い詰めて…、探し出す。」
男は全身で真白を抱いていた。男の長細く頑丈な手足が、真白の華奢な体に絡みついて…離さない。
「…愛しているよ、真白。」
真白は耐え切れなくなり、瞳から大粒の涙を流しだす。嗚咽を殺し、啜り泣きを続けるΩを氷見は後生大事そうに抱き続ける。
十四日目。火曜日。大学までの道中、緑の茂る場所を通ると鳥の囀りや虫の鳴き声がよく聞こえ、自然の力を思い知るほど、空は一日中晴れ晴れとしていた。
今日も午前中に携帯が震える。見ないふりを続けていたが、結局Ωだと皆にバラされるのが恐ろしくて、昼休み中にメールを見てしまった。『昨日と同じ時刻に来い』。たった一文だけのそっけない文章が悍ましくて仕方ない。
行きたくない、ずっと大学にいたいと考えつつ、時間になれば足は自然とホテルに向かっていた。頭は、きちんと理解している。今の氷見には、逆らえない。Ωだと皆に知られたら、自分の人生そのものが崩壊してしまう。
初日あれほど煌びやかに見えたロビーも、今はただただ不浄の土地にしか見えなかった。鉛の如く重たい足を引きずって、どうにかエレベーターに乗り込む。昨日はハグだけで氷見は満足したが、いつ犯されるのかわからない。脅されて身体を暴かれ、氷見との行為が日常になっていくのを想像すると、強烈な眩暈と吐き気がした。
風俗で働くのだって、金を稼ぐというきちんとした目的があった。目的すら見失い、氷見の奴隷に引きずり戻されるなんて、考えるだけで気分が悪くなる。
どうにか部屋の前に行き、ノックする。『入れ』。昨日と同じ返事。氷見の本性を知る前は、ノックした後に返事がくるだけで嬉しかった。…今はもう、二度とこの声が聞こえなければいいのにとさえ思う。
部屋の隅で、氷見はキーボードを打ち続ける。真白は、そんな相手を視界の隅に入れつつ、ベッドの淵に腰を下ろす。部屋いっぱいに無機質な音が満ちていく。
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