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温かな、αの男の体温に包まれていると、真白の緊張の糸は度々切れそうになる。心を許してはダメだ、と思い込もうとするのに、身体は安堵してしまったのか。強烈な眠気が襲ってきた。静かな雨音すらも、今の真白にとっては眠りに誘う子守唄だ。寝ては駄目だ、この人の前だと何をされるかわかったものじゃない…。強く言い聞かせても、土日に蓄積された睡魔には打ち勝てない。とうとう、真白は安らかな眠りに落ちてしまった…。
噎せ返るように暑い、夏の日のことだった。
1LDKの、お決まりの小さくて狭い部屋。玄関ドアを入ってすぐにキッチン。奥は広めの部屋。キッチンには、玄関と区切るように冷蔵庫、シンク、ガスコンロと順に並んでいる。P区の部屋とキッチンの間には、横に長いテーブルが設けられていた。
十二歳の真白は、シンクに手を置くよう言われた。後ろから圧をかけるのは、大きくて広い背の男だ。男が動く度、つられるように真白も揺れた。
真白は発情期特有の荒い呼吸を繰り返しながら、それまでシンクに向けていた顔を上げた。目の前には窓があった。嵌め殺しの窓。鉄格子が、自分を窓の中に閉じ込めるかのように何本も鉄の棒を下ろしている。鉄格子の奥には、一匹の蝶が浮遊している。黄色と黒の色鮮やかな小さい蝶だ。窓向こうを優雅に舞う蝶に、幼い真白が手を伸ばす。すると、小さな手は大きくて分厚い手に握られ、それ以上伸ばせなくなる。
小さな真白が振り向くと、そこには、額に汗を浮かべ、にこりと口元だけ微笑んでみせる、氷見恭二の顔があった。
氷見の口元が動く。
『捕まえたら、だめだよ。』
氷見の声が、今度ははっきりと聞こえる。小さな真白を慈しむような声だ。
『蝶になっちゃ、駄目だ。』
物悲しいひぐらしの声が、氷見の声と時折重なる。
『お前はそのままでいなさい。』
夢の中の幼い真白は、ぎくしゃくと小さく頷いてみせた。
「聞こえたっ‼」
叫ぶと同時に、真白はがばりとベッドから上半身を持ち上げていた。荒い呼吸を繰り返す。そこでようやく、ここは…、と真白は思い出す。ベッドの中央に、四角いメモが落ちていた。
息を整え、真白は小さなメモを指先で拾う。そこには、流れるような文字が並んでいた。
“疲れていたのに、付き合わせてすまなかった。俺はこの後予定があるから、先に部屋を出る。ルームキーになるカードは机の上に置いておくから、帰る時にでもカウンターに戻しておいてくれ。”
読んだ後で、真白は胸襟をこれでもかと引き延ばして、自分の裸体を確認する。…どこにも、行為の後はなかった。絹の如き素肌には、キスマークすらつけられていない。
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