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話をぶった切るように、氷見は低く唸った。
「…だが、最早限界だ。オレは、明日が終わったら真白とはもう二度と会わない。」
執事はそこで初めて、目を見開いて驚いた表情を浮かべる。
「…正気ですか。最愛の人ではないのですか??」
「…さぁてな。」
氷見はふんと鼻を鳴らして、絡めた両脚の上で指を組む。深く俯いたためか。αの男の目元に影が差した。
「…八年前の恋に、オレもそろそろけじめをつけるべきなんだ。」
ホテル玄関が見える車窓の外、どこか遠くで閃光が走り、やや遅れて雷鳴の轟く音がした。雷鳴がやむと、ますます雨脚は増し、雫のあちこちで跳ねる音が車内を満たしていく…。
真白が帰宅したのは、午後五時半過ぎだった。今までは氷見に午後三時から午後六時まで束縛されていたので、異例のはやさの帰宅といっていいだろう。
帰路の途中で雨が降ってきた。リュックに折り畳みの黒い傘は入っていたが、家の近くなので放っておいた。…というよりか、傘をさすより気になる出来事があって、そちらに気をとられてばかりいた。すると、雨はとある雷鳴でザッと土砂降りになり、真白はすぐさまマンションに駆け込んだものの、少しばかり濡れてしまった。
ゆっくりと浴室でシャワーを浴びながら、真白はぼんやりと考える。…今日の氷見の話は、俄かには信じがたいものだった。
「…僕の両親を、氷見さんが事故に見せかけて殺した??」
熱い無数の雫に身体を打たれながら、真白は憂鬱そうな面持ちで目の前の白いタイルを睨みつけた。
浴室を出て、ラフな格好に着替えた真白の携帯が震えた。また氷見だろうか、と怯えつつも覗き込んでみると、相手は真白の叔父にあたる男からだった。いつも仕事が忙しくて真白が連絡しても掴まらない身なのに、あちらから働きかけるなんて珍しい。早速、電話をとる。
『あ、真白か??久しぶり。』
叔父が名乗り終えるのを聞いた途端、真白はすぐに思いついた。
「おッ、叔父さん、聞きたいことがあるんだっ‼」
…とはいえ、両親の死について、氷見という男と直接関わりがあったか、と直球には聞きにくい。困った末、真白は叔父に訊いた。
「…あのさ、僕のお父さんやお母さんが死んだのって、事故が原因なんだよね??」
話が話なので、叔父も少なからず声を低めて答えてくる。
『ああ。そうだが。…どうかしたのか??』
「…えっと、ね。その、言いにくいんだけど…他の人に殺された、って可能性はない??」
少し間を置いて、叔父はすっかり呆れた声を出す。
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