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時は未来。
総力戦となる世界大戦が始まろうとしていた。
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「なあなあ、"性別"なんだった?」
そう呑気に聞いてくる隣の席の立川。
性別という極めてプライベートな事を教室でしかも大きな声で聞いてくるあたりこいつには常識というものがないのだろう。
特別仲がいい訳でもないのに、1日に1回は必ず話しかけてくる。
それとも立川目線だと俺は既に友達枠なんだろうか。
だとしたら大間違いだが。
「……βだよ。そういうお前は?」
「もっちろんβ!!まあ両親もβだし当然なんだけどなw」
聞いてもいないことをつらつらと喋る彼は、俺が迷惑そうな顔をしていることにすら気づいていなそうだ。
こういうタイプが1番めんどくさい。
「てかさこのクラスにαとかいんのかな?!」
「…さあ?聞いてみれば?」
「ええ〜零ちゃんは気になんないの?αとか」
「別に、てか零ちゃんって辞めてくれる?ちゃん付けされたって気持ち悪いだけ」
「いやー零ちゃんは零ちゃんだからな〜。てか零ちゃんはΩだと思ってたのに意外」
懲りずに零ちゃんと呼ぶ彼に嫌気がさしたがとりあえず波風立たないように会話を続ける。
「………冗談よしてよ。Ωに生まれたら終わりだし」
「まあそれもそうかww 女ならまだしも男のΩなんてガチで生きてる価値ねえしなw」
こんな普通ならどうでもいいような立川が言った言葉にすら敏感に反応してしまう。
…お察しの通り、俺はΩだった。
両親は"運命の番"だから俺は生まれた時からαか、Ωの2択。
だけど運動神経も良くなく、勉強は平均。
両親は俺が自覚する前からもうΩだとわかっていたと思う。
事実、学校でΩだと告げられた時「ああやっぱりか」みたいな納得してるような、悲しんでるような、よくわかんない顔してたし。
===
(このお話の中のオメガバース設定。)
この世界には、男と女以外に性別がある。
男α
女α
男β
女β
男Ω
女Ω
αとは子供で言うなら文武両道。大人で言うなら会社の社長や取締役。お国のお偉いさんなんかも大体がαだ。
両親が(運命の番ではない)α×Ωの場合、100%の確率でαは生まれてくる。
α×αやα×βではαは生まれてこない。
βとはこの世界の人口の約八割がこの性別だと言われている。
全てが平均で結婚もβ×βですることが殆ど。その場合、子供は何か突然変異がない限り必ずβが生まれる。
Ωとは社会的地位が低い性別。その体には男女問わず子宮が付いており男でも妊娠可能な体である。
全てが平均以下で、ある政治家は「もし自分がΩとして生まれていたら自害していた」等と話すくらいである。
まともな職につける人は殆どおらず、基本は夜の街や水商売で生活している人がほとんど。
しかし先程も言ったように、これからの世界で必要なαを生むためにはそんな差別されてきたΩと性行為をする必要がある。
そんなαの為にこの国ではαに限り、一夫多妻・一妻多夫制が認可されており、αはΩと行為をし妊娠したと分かったら即離婚。出産したら子供だけ貰い受ける様なα絶対主義が普通だ。
しかしそんな中に、Ωにとっては唯一の救済措置がある。それが…
" 運命の番 "
世界にたった1人、αとΩには運命の番が存在している。
それは海を渡った先にいるかもしれないし案外近くにいるかもしれない。
一生のうちに出会うこともあれば、出会わないこともある。
だけど運命の番の2人が出会い、目を合わせると本能的にこの人を求めずにはいられないようになってしまうという。
そして運命の番の間に生まれた子供はαとΩのどちらかに必ずなる。割合はまだ解明されていないが大体五分五分。
そして反対にΩにとって最悪とも取れるケースがある。
稀に、運命の番が既に不慮の事故等でなくなってしまっている場合や、遺伝子的に運命の番でも合わないタイプがあるらしい。
そういうΩには国から強制的に"番となる人"が支給される。
簡単に言うと、運命の番がいないΩなんて発情期が来たら厄介この上ないから誰か1人αを差し出して項を噛んでもらって、発情期を耐えろ
…ってなわけ。
Ωに決定権なんてない。
Ωに幸せな未来なんてない。
それがこの世界の理。
===
「ああでも優ちゃんは絶対主義αだろうな笑」
「優ちゃん?」
「高城優せんせー。高身長で高スペック。さらに顔も超がつくほどのイケメン。人生勝ち組ってああいう人のこと言うんだろうな」
…高城優。
去年この学校に赴任してきた若い先生でまさかの担任。
今こいつが言ったように、高城先生は全てを兼ね備えてるいわゆる勝ち組。
高城の授業前になると、女子たちが必ずと言っていいほどメイク直しをするから、化粧臭くてたまんない。
「…ああ確かに、αっぽい」
先生の前では絶対ボロ出さないようにしないと。
…とか思ってたのに、一限目から高城かよ。
「おい、授業始めんぞ。教科書開け」
…こんな俺様で、毒舌で、ちょっと顔がいいだけのやつのどこがいいんだか…
「えっと…今日は21日だから21番の戸崎。P.148読め」
「へっ?!!…あ、はい……」
びっっくりした…急に名前呼ぶなよ…。
「…ん、OK。座れ」
…なっが。3ページ分も1人に読ますなよ。
少し溜息をつきながら、静かに座った。
「黒板板書しろよ。…あ、そういやお前ら知ってるか?もうすぐ世界大戦おっぱじまるって噂あんだろ?それで、もしかしたらお前ら高校生も戦場に駆り出されるかもって」
「は?何それ。優ちゃん」
「おいそれって俺らも戦えってこと?」
「まじで無理なんだけど、んなもん知らねーよ」
「それな?国のことなんかどーでもいいし」
「てか戦う暇あるならメイクしたーい」
「山ピーとお近付きになりたーい」
「それはただの願望w」
「やべ、欲が出ちまったぜww」
一瞬で教室は騒音祭り。
静かに授業受けたい、俺みたいな真面目なやつもいるんだからそこら辺熟慮して欲しい。
まあ、あいつらみたいなのが俺みたいな陰キャの為に静かになったらそれはそれで気持ち悪いけど。
「おいおいお前ら俺が初めに言ったことだけどうるさいぞー。まあifの話だからそんな気にすんな。それとΩは特別待遇で戦場には行かないらしいから遊ぶなら今のうちだな」
「うわずりー」
「いやいやお前Ωなんかに生まれたっていいことないぜ?」
「それもそうだなw」
「戦場に行かないメリットよりΩとして生きてくデメリットの方がでけえし」
「確かにー」
「うわ待って、つけま取れてきたんだけど」
「鏡いる?」
「頂戴!」
うるさいなあ。
お前らβは気楽だよな。期待も失望もされなくて。
「零ちゃんは俺が守るから大丈夫だよ?」
「………」
やっぱりこいつは苦手。守るとかどの口が言ってんだよ。さっきΩのこと馬鹿にしたばっかじゃねえかよ。
「おーいお前らのせいで授業10分押してんだからそれ以上騒ぐな。あ、そうそう戸崎!この後先生から大事なお話あるから第3理科室まで来いよ」
うげっ…めんどくさ。
「……はい」
こちとら高城先生と話すことなんかないんだけど。
あ〜めんどくさい。
===
「先生〜?戸崎です」
めんどくさいけど行かない訳には行かない。
足取りは重かったし、立川はいちいちうざいし、ほんとクラス替えしたい()
「お、来たか。まあそこ座れ」
来たか…ってあなたがここに呼んだんですよ〜???
「まあ単刀直入に言うとな…お前、Ωだっただろ?」
人が1番気にしてることを…
「はい…そうですけど」
「そんでな、国から手紙が来たんだよ。お前の運命の番が"亡くなった"んだと」
それはつまり
「…僕は国からαが支給されるんですね」
「まあ胸糞悪い話だとは思うが、そういう事だ」
元々、Ωだって診断されてからこの先の未来に絶望してきた。
今更、傷付いたって意味無い。
全部決まったことなんだから…
全ては俺がΩに生まれてしまったから。
「あーそれでな、そのαなんだが…」
先生は言いづらそうに口を開いては閉じる。
「…別に、誰であろうと構いませんよ。どうせΩの僕に決定権なんてありませんから」
それは本心であり嘘でもある。
_これから先の未来…
僕はこの後の言葉を一生忘れることは無かった。
「……俺、なんだな」
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