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ロストセックスの研究に費やされる国費は、年々縮小。
岩田が所属しているこの研究所も、二百年前までは五階建ての地下二階フロアに常時三百人のスタッフが働いていたらしいのだが、現在は二階建ての地下一階。
常駐スタッフも建物延べ面積も十分の一以下で、昔のような活気はない。
研究し尽くされた分野のため新しく門戸を叩く者も滅多と現れず、大学卒業後この研究所を志願した岩田はあっさり受け入れられ、五年後には若くして所長の座を譲られてしまった。
と言っても、この研究所をわざわざ訪れる人間がいないので、4月の辞令で真新しくなった名刺を交換した相手も片手で足りている。
定年を迎えた前任者の南本さんは、嘱託職員としてたまに顔を出してくれるけれど、あくまでアドバイザー。
ロストセックスについて、岩田が深く熱く語れる研究員は、彼を含めても少なく情熱が消化不良を起こしている。
先程まで顔を突き合わせていたロストセックス管理委員会の出席者は、渋々定例会議に顔を出す者ばかりで議事録も過去のコピペで足りるほど中身が薄い。
αやΩと同じく、このまま先細りでロストセックスに関わるもの全てが消えていくんだろうか。
会議の後に必ず大きくなる不安を抱え、岩田は所長室から廊下に出た。
大昔、希少な研究対象者保護のために人工過疎化で誰も住まなくなった村を買い取り造成された研究所。
遮光も兼ねて大きくデザインされた窓の外に広がるのは、市街地へ続く舗装された一本道と山と空と広大な平野。
まるでここだけ時間が止まっているようだと、余所の人間に研究ごとこの建物を揶揄されるのにも慣れてしまった。
まだ失われてないのに、何でもかんでも悟ってんじゃねぇよっ
会議のアレコレを思い出し、無意識に口が尖ってしまう。
なんとしても、バース性管理の撤廃は避けなければ。
気分転換に屋上にでも行こうかと歩き出した矢先、軽やかな歌声が聞こえてくる。
岩田のささくれだった気持ちが、恋人に会えた喜びを歌うその声に軽くなった。
もっと聞いていたいと岩田はその場で足を止めたが、角を曲がってこちらに気付いた彼は口ずさむのをあっさりやめてしまった。
「わっ、聞いてたのかよ!
相変わらず会議の後はこっわい顔だねぇ」
白衣の裾をヒラヒラさせながら、岩田の前まで小走りで近寄ってくる歌い手。
ひまわりのような明るい笑顔に似合わず、若干口が悪い。
研究者でもスタッフでもない彼は、本来白衣を着る必要が無いのだが岩田は黙認している。
岩田の幼馴染であり、この国で唯一生存確認が取れているΩの矢吹 伊織。
岩田よりやや小柄ではあるものの、外見はβと何一つ変わらない。
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