アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
9
-
休日。
矢吹は、鈴木の車で市内へ出ると、一回り離れたお姉様方の天野とその同僚、総務の松生、広報の寺崎と並んで映画を鑑賞し予約していたカフェでランチを堪能していた。
矢吹以外の四人は、料理が運ばれてきてもスマホを操作していて忙しそうだ。
手持ち無沙汰の矢吹に、先に食べてと促したまま誰一人スマホから目を離さない。
岩田がアリシアと休日を過ごすようになっていたとき、気分転換にと天野から誘われるようになった。
このカフェもすっかり常連だし、ここでスマホに忙しい四人に放置されるのも初めてでは無い。
矢吹は私用のスマホは持っていても、普段から連絡をやり取りする相手は岩田の両親、岩田姉、岩田本人に限られている。
天野がキラキラ目を輝かせ指を動かし、松生は興奮気味に唸り、寺崎は両手でスマホを掲げ祈りだした。
隣の鈴木は、「ふむふむ」と冷静に頷いて画面を眺めているから、彼だけは仕事に関するサイトを読んでいるのかもしれない。
同じテーブルを囲んでいるのに、一人だけ料理を口に運ぶのはどこか虚しい。
泣ける恋愛映画の感想も言い合いたいし、早く終われば良いのにと矢吹はこっそり肩を落とした。
〜グループチャット〜
天野『所長がつけてきてますよ!
カウンターの左端。
ガン見したらバレるから、そっと確認せよっ』
松生『たまたまじゃなくて?』
天野『映画館でも後ろにいたし、ここに来るときもずっと後ろにいたから尾行で間違いありませんっ』
寺崎『なんと、なんとっ、今まで無かったことじゃないですかぁっ』
松生『矢吹さんに、それとなく何か変わったことしてないか聞いてみる?』
天野『予想としては、所長室より鈴木研究室に来る回数が増えてることに気づいての偵察かも?』
松生『偵察なんかしなくても、所長なら直接矢吹さんに尋ねそうだけどなぁ』
寺崎『あのですね、車の移動中に矢吹さんとお話していたのですが、所長から今日誘われたけど先約があると初めて断っているらしいです』
天野『それだーっ』
松生『ハイ、ソレッ』
寺崎『もしよければ、私に一案あるのですが』
松生『よし来いっ』
寺崎『このメンバーで唯一ライバルポジにつける鈴木さんと二人きりで行動していただくのはいかがでしょうか』
鈴木『面白いね、採用』
天野『先生、ノリノリですねっ』
松生『男性Ωの恋愛成就って難しいですもんね。それを生で拝めるとか最高っ』
寺崎『どうか矢吹さんの恋が上手く実りますようにっ』
パタパタと、ほぼ同時に四人のスマホがテーブルの上に揃う。
終わったのかとホッとした矢吹に、天野は代表してにっこり微笑んだ。
「あ、そうだ。
私達ちょっと服とか化粧品とか買いに行くから、その間鈴木先生の古本屋さん巡りに付き合ってくれないかな?」
「良いっすよ」
普段お世話になっているのだから荷物持ちくらいと、あっさり了承する。
矢吹が本当に研究のネタにされていることを知るのは、自分の行動が論文として形になってからだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
9 / 9