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あの日、おれはΩ属性の発症による発熱だと診断された。
その時から人生は大きく変わった。
病院はすぐさま、保険証と兼ねたナンバリング制度を使って国に報告した。
そして国はそのナンバーから父と母を特定し、彼らの口座に『Ω祝金』を振り込んだ。
「くっそ、何が祝金だ。」
「あなた・・・。」
祝金という名の、手切れ金。
もう二度と、真矢が帰ってくる事は無い。
「こんなの間違っている!」
「でもおれ、行かなくちゃ。」
施設に行かなければ、両親が罰せられる。
その事は国から派遣された人から聞かされていた。
涙を拭って最小限の荷物を纏めながら、真矢は唇を噛みしめた。
真矢が心残りなのは、残していく両親と子どもの頃に将来を誓い合った、優しいお兄ちゃんの事だ。
夏休み、おばあちゃんの家に遊びに行った時に出逢ったそのお兄ちゃんは、優しくて格好良くて、目が合うとなんだかキュンキュンして、好きだって思った。
今もその出逢いを思い出すと、胸が高鳴るのだ。
『名前、真矢っていうんだ?』
『うん。』
『また逢いたい。』
そう言ってくれた。
今思えば、単に小さな男の子が自分を慕ってくれたから、調子を合わせてくれただけなのかも。
それでも逢いたいと言ってくれた事が、その当時の真矢は嬉しくて堪らなかった。
『うん!ね、けっこんしたら、ずっと一緒にいれる?』
そう聞いたら、お兄ちゃんは目を細めて頭を撫でてくれた。
『そうだな・・・結婚したら、ずっと一緒だな。』
ああ、恥ずかしい。
思い出すたびに、赤面してしまう。
『じゃあ、けっこんしたい!』
『アハハッ!じゃあ、将来、結婚しよう。』
ああ、きゅんきゅんする。
きっとあの時のお兄ちゃんは、おれが男の子だって知らなかったのかもしれない。
昔は、よく女の子と間違えられたからだ。
それとも男の子だと分かっていても、泣かせるよりマシだと肯定してくれたのかもしれない。分からないけれど、その甘酸っぱい思い出は、引っ込み思案の真矢をずっと支えてくれていた。
『お兄ちゃん、名前は?』
『あきら。晃っていうんだ。』
手のひらに、字を書いてくれた。
日に光。
その時、お兄ちゃんは太陽なんだって思った。
ああ、なのに。
晃さん・・・。
いつか、逢いたいと思っていた。
実は男の子だったんです、って笑いながら話せる日が来るかもしれない、もう一度逢えるだけで充分だって、そう気持ちの整理をつけていたのに!
なのに。
「これからあなたは、国に管理されます。美味しいものを食べて、綺麗な服を着て、ほんの少し仕事をするだけなんですよ。」
怖いと思った。
そのほんの少しの仕事が、不気味でならなかった。
「一か月後に迎えにきます。それまでに大切な人とのお別れは済ませておいてください。」
ああ、期限が迫る。
もう両親と会う事が出来なくなるのだ。
「これは支度金です。自由に使って下さいね。」
両親へ振り込まれたΩ祝金以外に、真矢の口座にはびっくりする程の大金が振り込まれた。
両親と過ごす最後の思い出に使って、残りは母親に渡した。
せめてもの今までの恩返しのつもりだった。
そして、一か月後の今日。
おれを迎えに来たスーツ姿の男性に腕を引かれた。
「母さん、元気でね。」
「真矢ッ!!」
気丈な母が泣き崩れた。
父も涙を見せてくれた。
それでも、ふたりは自分を留めることができない。そして、おれも足を止めるわけにはいかなかった。
「・・・真矢も、元気でね。」
「うん。」
ばいばい。
さようならは言えなかった。
生きては二度と会えないだろう両親に、真矢は必死で笑顔を作った。
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