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真矢が連れて行かれた施設は、真っ白いコンクリートの建物だった。
通称、産院。
普通と違うのは窓が無い事と、部屋から出れないように重い鉄製の扉が常に施錠されている事だ。
携帯電話は没収の対象だったから、そもそも持ってきていない。
テレビも無く、外の状況が一切分からない部屋に、真矢の心は暗く沈んだ。
彼が与えられた部屋は、8畳程の広さに備え付けのクローゼットと大きなベッドが置いてあった。
隣の続き部屋は、バスルームと洗面所、そしてトイレになっている。
・・・クィーンサイズのベッド、初めて見た。
持ってきた荷物を置いて恐る恐る座ってみると、信じられないくらい上等なのが分かった。
・・・時計も、無いんだ。
窓がなければ、太陽を見て時間を知ることも出来ない。
真矢は不安に唇を噛み締めた。たぶん、管理というより、監視という言葉が正解なのだろう。
何かあれば部屋の天井に設置されたスピーカーから指導されるそうだ。
検診も定期的に行われると説明された。
・・・どんな検診なのか、すごく不安。
熱を出した日以降、腹部に痛みを感じるようになった。
臍の奥は常にジクジクと痛んでいる。
男性体からΩへ変化していく過程では、どうしても体は痛みを発するのだそうだ。
『梅木さんの体は、今後徐々に変化していきます。胎内の変化が完了したら、今度は月に一度、発情期を迎える事になるでしょう。』
淡々と告げられた『発情期』という言葉に、真矢は小さく震えた。
『その時から仕事をして頂く事になります。これは義務であり、拒否権はありません。』
・・・怖かった。
仕事とは、αを作ることだ。
つまり・・・。
ギュッと拳を握った。
いつか、逢いたかった。
お兄ちゃん・・・晃さんに。
これから自分は、月に一度の発情期に知らない誰かを相手する。
そして、一生をこの産院で過ごすのだ。
真矢は、どうしても聞けなかった。
もし、妊娠できなかったらどうなるのか。
もし、妊娠できる年齢を過ぎたらどうなるのか。
『処分』という言葉が頭に浮かんで、慌てて打ち消した。
『あの、お食事は食堂に行くんでしょうか。』
『いいえ、食事は、・・・。』
食事は、毎回部屋に運ばれる。
洗濯物は、食事を運んできた職員に渡せば、翌日までに洗濯して返してくれるらしい。
新しい服や下着は、定期的に支給されるという。
清掃は、不定期にある運動の時間に職員が行うらしい。
運動は部屋を出て、指定された区域で実施する。
『運動中の私語は厳禁。』
ただ、そのルールを聞いて、真矢は少し安心した。自分と同じΩと会うことのできる唯一の機会だと受け取ったからだ。
厳禁と言われるくらい、きっと沢山の人と会えるはず。
真矢は前向きに、そう思った。
真矢はその日から食事の回数をメモした。
午後から入所したから、1回目の食事は夜からスタートだ。
つまり、10回目の食事を摂る時には、4日目の夜ということになる。
カレンダーを奪われた今、日にちを確認するには、この方法しか思いつかなかった。
これだけやれば、いちにちの感覚を忘れないよね?
だが、真矢の習慣は無駄になる。
それは、発情期を迎えたからだ。
「あ、あぁ!!」
この頃、抑制剤は作られていなかった。
何故なら、Ωはαと性交するために集められていたからだ。
子を産むためのΩへ、抑制剤は要らない。
・・・欲しいッ!
頭を掻き毟りたくなるほどの、体の飢え。
セックスの事しか考えられなくなる状況は、初めての事でひどく狼狽(うろたえ)た。
「・・・く、ぅ。」
食事が運ばれても食べる気になれない。
就寝を指示されても、セックスに飢えて寝れない。
何度運ばれて、何度寝ろと指示されたか、もう数える気力は失われた。
それでも、発情期を迎えた事を彼らに知られたくなかった。
係員がやってきたら、つとめて平静を保った。
食事は、食べたように必死で誤魔化した。
ああ、助けて・・・!
体は飢えて、オトコを求めている。
でも、お兄ちゃんの事が好きだから発情がバレたくはなかった。
生き地獄のような状況に、真矢は晃を思い浮かべる事で正気を保とうとした。
でも、逆に晃から抱きしめられたいと思ってしまって、自己嫌悪で死にたくなった。
晃を思い浮かべての自慰だけはしたくない。
自分が汚れてしまった人間のように感じてしまいそうだったし、自慰をする様子を見られたら、発情期を迎えたのがバレてしまう。
冷たいシャワーを浴びる事で体を落ち着かせようと、必死の思いでシャワー室の扉に手をかけた。
『梅木さん、シャワーはお湯しか出ない設定に変更しました。』
無情にも、スピーカーから音声が流れた。
『本日、検診があります。ベッドの上で待ちなさい。』
朦朧とした意識の中で、真矢は思った。
とうとう、バレた。
きっとその検診は、子どもを産めるかを確認する為のものだ。
ああ、お兄ちゃん・・・晃さん!
発情期を迎えてしまったおれは、もう二度と笑顔になれない。
体の飢えに任せて、『仕事』をするのだ。
あぁ、晃さん・・・。
あなたともう一度逢いたかった。
真矢は絶望感に、ぽろぽろと涙をこぼした。
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