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坂上が部屋に入ると、真矢は静かに眠っていた。
唇を小さく開けて寝ている。
ふふ、やっと逢えたっていうのに。
あの日から一週間、必死で働いた。
ふたりのDrと共に診察に入り、その現実をしっかりと受け止めた。
彼の言う通り、αに『治療』をされた後のΩの体は、擦過傷や無理やりに挿入された時に出来る裂傷で真っ赤に腫れ上がり、血を流している事も少なくなかった。
そのひとつひとつを治療し、雑談を交えながら心の傷を癒していく工程は、とても大切な事だと学んだ。
そして何より、同じαとしてこんなことをする奴らを許す事は出来ないと思った。
『ねぇ、先生。発情期って無くなるお薬ないんですか?』
ドキッとした。
『・・・今は無いけれど、そのメカニズムは分かっているから、いつか出来るかもしれないね。』
ああ、そうだ。
定期的にある発情期をコントロールできれば、彼らも外に出て仕事をする事もできるだろう。
『そっか。早く出来るといいな・・・。』
監視員の中にも、Ωの嘆きを自分の事のように感じてくれている人もいた。
『・・・ようやく家族を持てたのに。』
出産で命を落としたΩのわずかばかりの私物を纏めて、ご遺族に送る準備をしていた女性に出会った。
『感情は持つなって言われているんですけど、食事を持って行った時に挨拶をするでしょう?そうしたら、やっぱり情って湧くんです。・・・あまりにも可哀想で。』
そう言ってポケットから折り紙を出して見せてくれた。
『ここにいた子は優しい子で。私に3歳の子が居るって話したら作ってくれたの。』
花の形に折られた折り紙は、もう新しく作ってくれる人は居ない。
『もうすぐ私も産まれるの。そうしたら、この子と一緒にここを出れるのよって笑ってた。』
実際に、ここから出る事が出来たのは赤ちゃんだけだ。
彼女は、産み落とすと静かに息を引き取った。
『ねぇ!どうにかなりませんか?こんなの間違っている!』
『わたしもそう思います。お願いします、力を貸してください。』
少しずつ、この施設内外で賛同者を増やしている。
絶対に、彼らの人権を護らなければならないのだ。
ここに通うαの名簿は入手した。
殆どが偶発的に生まれたαたちだ。
年齢は20歳から、呆れたことに60歳代まで居た。
・・・絶対に許さない。
彼らは、性の捌け口に使われていいものではない!
慎重に、慎重に。
そして、完全勝利を目指して足元を固めている。
いつ告発できるか分からない。
だが、必ずやる。
そう決めた。
そして、ふたりのDrも俺が本気でΩの為に動いている事を認めてくれた。
「・・・真矢。」
頬を突っつくと、薄く目を開いた。
「晃さんだ・・・。」
手を伸ばしたその体を、ギュッと抱きしめた。
「・・・ゆ、め?」
「夢じゃないよ。おはよ。」
首元の甘い香りを、鼻腔いっぱいに吸い込む。
「ふふ、くんくんしないで。」
「だって真矢、良い匂い。」
ふたりでクスクス笑った。
「夢じゃなかったんだ。本物の晃さん?」
「本物ですよ。」
ああ、幸せだ。
もう逢えないと思っていた真矢が、腕の中にいる。
「・・・晃さんも良い匂い。甘い匂いがする。」
「え、そんなこと言われた事は無いよ。」
まだまだΩのこともαのことも、研究されていない部分が多い。
運命の相手だけが感じるフェロモンのことが立証されるのは、まだ先の話だ。
「嘘。こんなに良い匂いしてるのに。」
これから坂上は大きな戦いを挑む。
この戦いは、後に世界中から賞賛されることになる。
Ωの暗黒の時代。
それは、もうすぐ終わりを告げるのだった。
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