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西の海にいくつもの島々で形成された地ーー正式名称はヤオイ諸島といいますーーそこを中心に謎の汚染物質“ジュネ”が放出され始めてから100年が経とうとしています。あらゆる生命が死に絶えた環境であり、特に汚染が深刻な区画をエリア801と呼びます。
当時、帝国特務機関『CURE』では、前線を張っていた主力の兵士2名が脱落したことでジュネ排出を阻止できる手段を失い、国家存続の危機に瀕していました。そこで新たな戦力増強のため、アルファ養成所オメガ養成所からそれぞれ一人ずつの新兵を投入したのです。それがリアンとアイザックでした。彼らはもともと面識があったようで、息の合う二人を組ませた際の成績は抜きん出ていたと存じ上げています。
リアンはアルファ兵として、アイザックはオメガ兵として腐海へ赴くようになります。死と隣り合わせの腐海で猛威を奮う彼らはオペレーターいらずと評され、輝かしい功績を積み重ねていきました。戦績のみを考慮した場合、歴代最高の貢献度だったとの呼び声も高いです。
そんな彼らにも正式なサポートをつけようということで、CUREの新たな取り組みとして導入されたのがオペレーターのAI化。私はその試作機であるPRE-XES001『ハーツ』と申します。
サポートにつくにあたって、彼らの詳細なデータがインプットされました。
リアン・フェリクス。17歳。α。主属性・火、副属性・土。剣技を得意としており、双剣や大剣も扱える。攻撃力と素早さに特化しており、奥義の圧倒的な火力は他の追随を許さぬほど。戦火で家族を失い天涯孤独となっていたところ、スラム街で同い年のアイザックと出会う。その後、戦闘能力を買われて研究機関に収容される。
アイザック・ヒンメル。17歳。Ω。主属性・水、副属性・風。メインは近接戦だが、銃火器も使用できる。リアン同様攻撃力、素早さに秀でており、手数の多さで圧倒する戦法。スラムの孤児として育ち、研究機関に収容されるところまでリアンと同じ人生を辿っている。
彼らのコンビネーションに目を見張るものがあるのも、共有した時間の長さのなせる技なのかもしれません。
その日は私の試運転も兼ねた作戦が組まれました。
「へんしーん」
リアンとアイザックはそれぞれ「黒夜の使者・アルファブラック」「白夜の使者・オメガホワイト」に変身しました。その動作も手慣れたものです。全身が強化スーツに覆われていく間も軽口をたたいていました。
「知ってっかリアン、俺たちが陰でなんて呼ばれてるか」
「何だよ」
「メンズ・プリキ◯ア」
「最悪じゃねえか。せめてライダーにしてくれっての。やっぱ単車乗りてえ」
「は、ズルっ! 俺金ねえから買えないわ」
作戦はすでに始まっているのにこの緊張感のなさです。
『リアンさん、アイザックさん、初めまして。私が今作戦よりオペレーターの実機として投入されることとなったAIの“ハーツ”と言います』
「お! なんか喋ってる!」
『全力でバックアップさせていただきますので、お二人も私の指示通り動いて下さい』
「そういや上官がそれっぽいこと言ってたな。ま、どうでもいいけど」
アイザックが興味を示したのは一瞬だけで、私の言葉に耳を傾ける気はないようです。
「今さらかよ。指示とかいらねー」
リアンにいたっては嫌悪感を隠しもしません。ですが私は立場上、引くことはできないのです。
『受け入れられない気持ちは分かります。しかしお二人のさらなるご活躍のため私がいるのです』
「さらなる活躍、ねぇ……」
二人は顔を見合わせ、意味深な笑みを浮かべます。アイコンタクトというやつでしょうか。彼らが何を考えているのか読心機能を搭載すれば可能だったのですが、この時点で私はまだβ版でしかなく、人心掌握ができるほどのスペックはまだありませんでした。
『それでは作戦開始にさきがけまして、基本的な説明をさせていただきます。まずはαとΩの役割について』
「は、何それ」
『アルファ兵とオメガ兵の二人一組での参加が基本となっております。アルファ兵であるリアンさんにはこちらに襲いかかってくる腐海生物の殲滅、オメガ兵の護衛が主な役割となっています。オメガ兵であるアイザックさんは任務遂行に注力してもらいます。探索、計測、実験、撮影、と多岐に渡ります』
「俺ら何気に凄いよな。今まで一切説明聞かなくてもミッションだけはやり遂げてたもんな」
『続いて、お二人の強化スーツについてです。生身では3分ともたない過酷な環境ですが、強化スーツにより最長6時間の行動を可能にしています。しかし5時間を過ぎる頃には相当なダメージが蓄積することが予想され、万全なパフォーマンスができないおそれがあります。任務は速やかに遂行しましょう』
「いらねー。さっさと始めようぜ」
『それはできません。作戦行動に関わる最重要項目だからです。お二人のご希望に沿うよう手短な説明に努めましょう』
「そうしてくれ」
『禁則事項についての説明です。私の後に続いて復唱して下さい。①任務上知り得た情報を外部へ漏洩しない』
「復唱とかしねえよボケ」
「なあ、ローエーってなんだ?」
『アイザックさんからの質問にお答えします。漏洩…読んで字の如くですが、漏れることを意味します。検索ソースは大辞林。先ほどの会話では秘密が漏れることを表現したつもりです』
私が補足を加えている間にも二人のアイコンタクトが確認されています。どうもリアンは苛立っているようでした。(お前が余計なこと聞くせいで説明増えたじゃねえか)(あは、わりぃ)そんな会話が聞こえてくるようです。
『②変身能力を任務遂行以外の目的で使用しない。③アルファ兵、オメガ兵同士の番の契約を無断で交わさない……希望通りかいつまんでの説明となりました。質問を受け付けます』
「なぁ、勝手に番っちゃいけないらしいけど、もしそれ破ったら俺らどうなんの?」
『お答えします。腐海での任務においてオメガ兵の“ヒート”が重要な役割を果たすのはお二人もご存知かと思います。任務遂行に支障をきたす行為をするのですから、相応の措置がとられると予想されます。情報によると先代にも戦闘中に番の契約を交わしてしまい、変身ライセンスの剥奪とデバイスの没収をされたバディがいたとのことです。お二人には是非とも規則遵守を心掛けていただきたいところです』
「あらぁ、シビアですこと」
『その他の規則については、改めて手持ちのガイドラインを一読いただくことを推奨します』
このときの私は、まさか今回が彼らにとっての最後の作戦になるとは予想もつきませんでした。
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