アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
1
-
彼を見つけたのは、本当に偶然の事だった。
モニターに映る瓦礫と、水面からところどころ顔を出す旧時代の垂直なビル。地球温暖化で水没し、大昔に廃棄された首都の跡地はどこまでも荒廃してて、別世界の風景みたい。
海面は近年、ある程度の水準まで戻されたが、超高層防水堤にぐるりと取り囲まれた旧首都は、未だ水の底だった。
水没を防ぐ為に築かれた防水堤だというのに、そのせいで水没したままなんだから皮肉なものだ。けどきっと防水堤を設計した旧時代の人も、温暖化がそこまで激化するとは予測してなかったんだろう。
この防水堤の内側、旧首都を覆う海は内海と呼ばれてる。
外海から隔絶され独自の生態系を保ってて、かつサメのような肉食の外敵もいないから、漁業が盛んとの話だ。
旧時代の建築技術は驚くほど優れてたようで、水没したビル群はまだまだ形を保ってる。そこを根城にする輩も多く、無法地帯と化してるとか。
オレは、そんな荒廃した水没都市が好きで――父に頼んで小型カメラを設置して貰い、モニター越しに朝昼となく旧首都の光景を眺めてた。
この日も、朝からモニターに映る旧首都を見てた。
窓の外の景色より、旧首都を朱く染める日の出の光景の方が好きだ。防水堤の向こうから昇る朝日が長く伸び、水に浸かった廃都市を鮮やかに照らしてる。
水に削られ崩壊したビルの残骸。まだ形を残しつつも、ガラスの多くが割れたビル。ビルとビルの間には粗末な橋が幾つも渡され、その無秩序ぶりが朝日の中で、より際立つみたいで面白い。
時々錆びてる橋があるのは、どこからか剥ぎ取った鉄の看板やドアを使ってるからだろうか。
そんな錆びた橋の1つに、その青年は立っていた。
背筋を伸ばして顔を上げ、全身に朝日を浴びて、支配者でもあるかのような超然とした笑みを浮かべてた。
色褪せたTシャツにクラッシュデニム、廃墟に似つかわしい質素な服をまとってさえ、目を引く程の魅力とオーラに溢れてた。
1度気付くと、もう彼から目が離せない。
「ああ……」
声を漏らして立ち上がる。彼をもっと見たい。
覇者だ。何の根拠もなくそう思った。ほぼ絶滅したと言われてるα種とは、彼のような存在かも知れない。
ドクンと心臓が強く跳ねて、たまらなくなって胸を押さえた。
この男が欲しい。
けど、彼はふっと朝日から顔を逸らし、錆びた橋を大股に渡って廃ビルの中へと姿を消した。
「待って!」
モニター越しに叫んでも、彼に聞こえるハズもない。追い掛ける事もできなくて、オレは1人、モニターの前に取り残された。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 12