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今日は遅番で、最近では閉店後の手伝いもさせてもらえるようになった。
リーダーと俺の2人だけだけど、
そう広くもない厨房の掃除なんて別に苦でもない。
行為後の汚れた部屋の掃除なんかもそれなりにやってきていたおかげで、
正直レジに数字を打ち込む作業よりも慣れるのは早かった。
「お疲れ様、有栖。そろそろいいよ。」
「はーい!」
リーダーは今日の売り上げや
俺にはよくわからないお金の計算やらをしていて、
なんだか尊敬してしまう。
βばかりの職場の中、俺とリーダーだけは違った。
リーダーは一見優しそうな見た目をしているけれど、
恐らくα性だ。
わざわざ確認したわけでもないけれど、
こればかりは今までの経験による勘というもので。
どうして健太君は気付かなかったのに、
この人の性別には気付くんだろう。
まったく。
と、スマホを見れば
健太君からメッセージが入っていた。
“お疲れ様。家に香水忘れてたんで、
次来るときまで置いときます。”
あー、やっぱり健太君の家にあったんだ。
置いた記憶あるもん。
んで、鞄に入れなかった記憶もある。
“健太君もお疲れ様ー!ありがとう!”
最後にお礼をしている可愛いスタンプを送信して、
事務所兼更衣室でもあるそこで着替えを始めた。
リーダーは…伝票の整理に必死だから
うなじが見えることはないか。
特に理由もないけれど、
なんとなくその印を隠して生活をしている。
コレ1つで、望まない相手に無理矢理されたのか、とか
愛しあう存在がいるのか、とか
いろんな想像を膨らませて俺の事を物珍しそうに見られるのも嫌だし、
コレがある…=そういう行為をしたって事だから、
なんだか見せ物にでもされる気分で見せびらかそうとは思わなかった。
まあ実際は印なんかついていなくたって
数え切れないほど行為を繰り返してきたのだけど。
「お先でーす!」
「ん、あぁ…。」
着替えを済ませて部屋を出ようとしたとき、
作業を中断してまで俺の元に歩いてきたリーダーに違和感を覚える。
「?…何か?」
「いや…。」
リーダーは俺に身体に指を沿わせて首の辺りに顔を埋めた。
「有栖…今日香水してないよな。
その割には匂い…薄いんだな。」
瞬間、ゾワリと全身が痺れたような感覚に陥った。
それは健太君の時とは違う…
どちらかといえば、悪寒がするようなそれ。
「あははっ、発情期この間終わったんで今は落ち着いてるんですよー。」
触れられた箇所からじわじわと広がる鳥肌は
俺に“この人は危険だ”と伝えるようにも感じられた。
けれど、パッと俺から離れたリーダーの表情はいつも通りの優しさを持ち、
ただ単に心配してくれていただけなのかと安心する。
「そっかそっか、ならよかったよ。
ここでそういうの気付いてやれるの俺くらいだし、困った事あればいつでも言えよ。」
「あ……。ありがとうございます。」
「ん!じゃーな、明日は休みだから明後日か。
気をつけて帰れよー。」
扉を隔てた通路でも、
妙に心拍が早いこれは
多分、拒絶反応の類だ。
早くこの気持ち悪いような感覚をかき消してほしくて、
俺は健太君の家に向かうことにした。
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