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「健太君になんて言ったの?」
アリスさんの冷静な物言いに、
俺には見せた事もなかったような薄気味悪い笑顔を浮かべていた店長の顔が、フッと陰った。
「…レ……アリスに酷い事をしたから
君の代わりにやり返してやったんだよ。」
「やり返した…?俺は望んで番になったんだよ?」
声そのものは、淡々と落ち着きを持ってはいるものの
俺と繋がっているその手には
震えるほど力が篭っていて
心なしか、少し顔も赤いように思える。
「どんな理由があろうと他の奴に抱かれるなんて屈辱でしかないだろうに…大人しく従う姿は本当に、滑稽だったよ。」
冷たく、突き刺すような鋭い視線。
その目はアリスさんから俺へと移り
2人の重なり合う手元に降りた。
「…その汚い手を離さないか、アリス。」
「健太君は汚くない。」
「離せって言ってんだ!!」
突如ガシャンと耳をつんざくような騒音がなったかと思えば、
デスクに置かれていたコーヒーや電卓、
そしてPCまでもが勢いよく床に散らばる。
大きな音に驚いたアリスさんは
大きく肩を震わせると
落とされた液晶に映る画像を見て
固まった。
…俺もつられて視線を向ければ
そこに映っていたのはーー。
「……ねえ、何?コレ…。」
「ん?あぁ……可愛いだろう。
今よりも少し幼い顔をしている。
…でも今の方が色気があって、綺麗だよ。」
先ほどの衝撃で亀裂の入った画面に映るのは
紛れもなく、俺の横に立つ人物。
アリスさんだけじゃない。
俺も、この人を甘く見ていたんだ。
この人の執着心を。
アリスさんに対するこの上無い歪んだ愛。
それはもはや恐怖を覚えるほどで
背中に妙に冷たい汗が垂れた。
「こんなに綺麗になって、あぁ…本当に
美しすぎてどうにかなりそうだよ。」
ゆらりと立ち上がった店長は
自らのベルトのバックルを外す。
そこで気がついた。
店長の中心は、誰が見てもわかるくらい
大きく張り詰めていて
浅い呼吸の音は
興奮し、欲情し切っている獣そのもの。
こんな人が
これまでアリスさんを雇い、俺や山内を雇い
平気な顔をして生きていたんだと思うと
頭が痛い。
こんな気狂いのされるがままになっていたなんて
認めたくも無い。
「…ぅう゛っ。」
俺さえも立っているのがやっとな状況の中
耐えられなくなったのか、アリスさんは俺の手を離し、崩れるように地面に座り込んだ。
「アリスさんっ、……?!」
アリスさんの腕を肩にかけ、
担ぎ上げようとしたその時
ブワッっと、脳まで届く甘い香りが
一瞬にしてあたりに立ち込めた。
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