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リクエスト11: アーヴィングとリシェの最期の瞬間の話
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アーヴィングとリシェの最期の瞬間の話
※一番新しい時間軸です。
【side: アーヴィング】
ーー嗚呼。今日が、人生最後の日だ。
朝、カーテンの隙間から差し込む日の光を感じながら悟った。
驚くほどに長く生きた。
兵士として城に勤め、身体の自由が効かなくなってから退職し、街を離れて。
戦いの多い自分が、まさか寿命で死ねるとは思ってもみなかった。
これほど幸せなことはない。
「アーヴィング、様?」
掠れた、でも出会った頃から変わらない透き通るような綺麗な声。
「リ、シェ」
「ーーあぁ、最後なのですね」
想いが通じたのか、小さな両手が力の入らない自分の手をあたたかく包み込んでくれた。
……本当にまさか、自分に番が出来るとは思ってもみなかった。
それも運命の番。
嗅覚が無くとも奇跡は起きるのだと、身をもって実感した。
子を成すのには苦労したが、初めだけ。
ひとり出来れば、それからはどんどん繋がり兄弟も多く作ることができた。
その子たちも巣立っていき、随分経つ。
1番下の子と最後に会ったのはいつだったか……もう、あまり覚えていない。
皆と最後に会いたいと思ったが、そんな時間は残されていないようだ。
(あの子たちは、大丈夫)
きっと強く生きていける。
だって、俺とリシェの血が流れているのだから。
「リシェ」
「はい。アーヴィング様」
本当に、いろんなことがあった。
出会ってから番になるまでの日々。
番になってから子を成すまでの日々。
子を成してから、育てていく日々。
時にぶつかり、時に話し合い、笑いながら互いに支え合ってきた宝物のような毎日。
そのどの瞬間も自分は番を愛し、そして愛されてきて。
(嗚呼……)
走馬灯のように途切れることなく大量の日々が再生されるのを頭で感じながら、目頭に力を入れてぼやける視界を整える。
セグラドルの為、この身を捧げた俺たち。
ラーゲルクヴェスト様の代はとうに終わり、今はその子どもの子ども…ラーゲルクヴェスト様の孫が代を継ぎ活躍している。
十数年Ωが現れなかったあの頃と違い、毎年の検査で数人のΩを見るようになった今日。
この流れは、きっとリシェやロカ様が作ってくれたのだと思う。
他国との関係も良好。
もう〝世紀末〟などと言った国が滅ぶような事態もない。
そんな平和な国を、子どもたちに残すことができて心から良かったと思う。
「リシェ」
「ふふ、はい。アーヴィング様」
本当はもっと、伝えたいことがある。
それなのに、肝心の口からは弱々しく名を呼ぶ声しか出てこない。
最後に、もう一度並んで外を歩きたかった。
木漏れ日の下で昼寝をして、日が落ちる手前に起きて笑い合いたかった。
上手い手料理を腹一杯食いたかった。
抱き合いながら、共に眠りにつきたかった。
もっと、もっともっと 一緒にーー
「大丈夫。直ぐに後を追いますので、安心してください」
「歳は離れていようと、もう間も無くというのが分かるのです」と、俺の手を持ち上げ自分の心臓の上にあてる。
番というのは、片方の寿命が尽きればもう片方の寿命も尽きるのかもしれない。
「ですから、少しだけ先に逝っていてくださいませ」
「ーーっ、リシェ」
「はい」
「愛、している」
君は、俺の人生で1番の宝石だ。
君と出会い生きる為に、俺はこの世に生まれてきたのだと確信している。
君と、たった1人の君と……番う為に。
「〜〜っ、はい。私も、愛しています」
いくつ歳を重ねても綺麗なリシェ。
君にも、俺はそう見えていただろうか?
いくつになっても頼れる俺でいたかったが、どうだろうか。
ーーまぁ、答えはまた出会ってから聞くとしよう。
なぁ、リシェ?
君が俺と共に寿命尽きるのならば、生まれ変わる瞬間も同じだろうか。
もしまたどこかの国、どこかの世界へ共に降り立つことができたならば
真っ先に、君に会いに行こう。
どんな場所にいたとしても、どんなに姿が変わっていようとも、必ず見つけられる自信がある。
それぐらい俺たちの絆は固く結ばれている。
神であろうと何であろうと、絶対に切ることはできない。
だから、だからもしまた出逢えた時は
もう一度 共に……
「ーーっ、は、い…はい、はい……っ」
見上げた先、目に涙を浮かべながら何度も何度も頷いていて。
それに薄く笑い、ほぅ……と息を吐いた。
いつも仲の良い4人の中で、俺が1番先だったな。
ラーゲルクヴェスト様やロカ様も、もう寿命が尽きる頃だろうか。
仕えていた君主の為、挨拶くらいはしておきたかった。
またどこかで運命が交わるのなら、再び貴方の元で働きたい。
出会える日を夢に見て…どうかーー
若くして城に仕え、戦いに明け暮れその功績から騎士団長へと任命され。
嗅覚を失いながら戦った血みどろの中出会った、愛しい番。
子を成し、育て、そして愛し合いながら同じ時を過ごし。
定年を超え、退職とともに人の多い場所からリシェの出身地である町へ越してきて、静かに暮らして。
そうして 今この時、最後の瞬間を迎える 俺の人生はーー
(大変に、幸せなものだった)
もうこれ以上などは、ない。
目頭から徐々に力が抜けていき、視界が再びぼやけ始めてくる。
だが、不思議と恐怖はない。
身体の力を抜き、大きく大きく 息を吸って……
「っ、アーヴィング、さま」
俺は、ゆっくりとその目を閉じた。
〜fin〜
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