アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
過去
-
俺には、母親がいない。
いや、正確にはいる。血は繋がっていないが。
俺の実の母親、又木優菜(マタギユナ)は、とても美しく優しい人だった。
優しく多才で、稀に見る美貌を持った母は、多くの人々に愛された。
しかも、大手会社の社長令嬢。
言わずもがなたくさんの異性とお見合いをしたらしい。
そこで手を挙げたのが、又木家だ。又木家は社会での圧倒的地位を持った家系だった。それから…まあ、いろいろあって、父、又木拓馬と母は結婚した。
残念ながら、そこに愛はなかった。
父は、ワーカホリックだった。子供なんて作るつもりはなかったみたいだが、当時の社長…つまり俺の祖父にあたる、又木利久(マタギトシヒサ)はそれを許さなかった。
そして二人の間に生まれたのが
長男 又木 久信(マタギヒサノブ)
次男 又木 菜易
三男 又木 優真
つまり、俺だ。
長男の久信は父に似て冷徹で、人に関心がない人。
次男の菜易は母に似て優しく、人に気遣いができる人。
俺は…別に何も無い。
とにかく、そうやって、俺達が生まれた。
父は、母にも俺達にも愛情を向けなかった。
しかし、俺が10になった時、父は急に俺に優しくするようになった。だが、母へのあたりは一層強くなった。
兄二人についてだが、久信は留学しており、当時は全く家にいなかった。
菜易は全寮制の警察学校に行き始めたため、久信と同様、家にはいなかった。
俺は、父のその愛を気持ち悪いと思った。でも、それと同時に嬉しさも感じていた。
10歳。いままで愛情を向けなかった父が優しくしてくれる。それだけで、父を好きになるのには十分だったんだ。
それから3年。俺が中学に入って初めの夏だった。夏だとは思えないほど、優しい風が吹くその日。
母は亡くなった。
父は事故だったと言った。あいつは悲しみを一切見せなかった。
俺はもう何も受け入れられなかった。
優しい兄も家におらず、たった一つの拠り所だった母が、亡くなった。
それからしばらくして、「さとみ」という女性が母親になった。彼女は別段善人という訳でも、悪人という訳でもなかった。
俺は、何故父がこの人を選んだのか分からなかった。彼女はいいとこのご令嬢という訳でもない。
だから、父はこの人を愛しているんだと思った。
母を殺すくらいには。
俺は、居心地の悪い実家から逃げるように寮制の高校へと進学した。
そして高校に進学して初めの母の命日。
その日に兄の菜易は言った。
「母さんは父さんに殺されたんだ。」
頭が真っ白になった。
「今の俺じゃどうにも出来ない。必ず強くなって、あの人を捕まえる。」
兄は、そう言った。
あぁ、だから菜易兄は警察になったんだ。
なんて、他人事のように俺の頭は考えることを放棄していた。
そう、母は父に殺された。
正しくは、父が金で雇った刺客が事故を装い、母を殺したのだ。
俺は父も、その刺客も許せなかった。
父をそうさせた、あのさとみという女も。
でも、俺には力がなかった。
そのうち、俺は現実から逃れるように素行が悪くなった。
つらい、つらいよ。
大好きだった母は亡くなり、1度は好きになったあの父も嘘で塗り固められたものだったんだと思うと、俺は、俺は、。
どうしたらいいの?
誰か、教えてよ…。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
4 / 13