アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
1
-
※モブ女子視点になりますので苦手な方はご注意ください。恋愛感情は一切絡みません。
会社が創業100周年を迎えたということで、東京ドームに全国の社員を集めて決起会が実施されることになった。
東京ドームなんて借りれるものかと思ったけど、試合や練習のない日は意外にも借りれるものらしい。予約は必要だろうと思うけど、逆に、どれだけ前から決起会の計画してたのかと思うと、ちょっと引く。
一応全国展開してる会社だから、北海道から九州まで社員は散らばってて、それを集めるとなると結構大掛かりなイベントだ。
地方から集まる社員には、交通費も支給される。
よそがどうかは知らないけど、我々名古屋支店の社員には、新幹線自由席の回数券が配られた。残念ながら日帰りもできる日程だってことで、宿泊費までは貰えなかったけど、それはまあ仕方ない。
「そんな金あるなら、ボーナスくれよ」
とか、
「くだらねーイベントに金使うな」
とか、周りからは文句しか聞こえてこなかったけど、私としては会社のお金で小旅行できる感じで、そんなに不満には感じなかった。
決起会の予定は、土曜の昼。
週明けの月曜は臨時休業になるらしいから、実質3連休ってことだ。
「せっかく東京だし、ディズニー行かない?」
「ドームの横にも遊園地あるんでしょ?」
「それより新宿で買い物したい」
同期の社員で集まって、わいわい旅行の話を詰める。
「遊びに行くんじゃないんだぞー」なんて上司に苦笑されたけど、その上司だって銀座がどうとか喋ってたし、考えることは一緒だと思う。
その内男子社員も集まって、みんなでどこかに行こうってなった。
こうしてやたらと「みんなで」ってなるのは、我々にとってそんなに珍しいことじゃない。会社がフロアごと借り切ったマンションに、外寮として固まって住んでた時期があるからかも知れない。
今は結婚だ異動だでバラバラになったけど、当時は週末ごとに集まって遊んでたし、誰かの部屋に集まって飲み会したりも多かった。
30手前になって改めて思うのは、若かったなーということだ。楽しかったし、あんな気の置けない仲間はそうそう作れないなとも思うけど、今同じことができるかと言うと、体力続かないなーとも思う。
価値観も学力レベルも学歴もほぼ同じで、仕事の話も共有できて……そう考えると、話してても楽しいのは当然だったかも知れない。
あまりにみんなと一緒にいるので、他との付き合いをついないがしろにした人も多い。
どんなに距離が近くても、仲間内で恋愛ごとになんて発展したりはしなかったし、男女混じって雑魚寝してても何も起こったりしなかったけど、はたから見ると「どうなってんの?」って感じだったろうと思う。
そういや、それが原因で破局した人いたんだっけ?
ほんの3、4年ほど前のことだけど、どんなに仲良くしてても所詮他人事だし、正直あまり記憶にない。
誰だったか、焦って大騒ぎした人いたよなー、と思う。
そんなことをぼうっと考えてると、男子の誰かが「湯島も呼ぼうぜ」って言い出した。
「湯島! 懐かしい!」
みんなが口々にそういう中、私も「ああっ」と声を上げた。
「そーだ、思い出した、湯島君だ!」
「何が?」
「破局するか何かで大騒ぎした人」
私の言葉に、みんなが「あー」「あったねー」と半笑いでうなずく。
「あれ、結局どうなったの?」
「いや、カノジョ連れて来てなかったか?」
「なんだっけ、『東京行って来る!』だっけ」
ドッと笑いながら「あった、あった」って共通の話題で盛り上がれるのは、やっぱり貴重なことだと思う。そうそう、こういう感じ。これがいい。
みんなといると楽しいなーって、一気に懐かしい気持ちになった。
湯島君、湯島槇君は、確か東京からの出向組だったと思う。
中堅の頃に勉強を兼ねて、地方に出向に行く人は結構多い。名古屋に来る人もいるし、名古屋から行く人もいる。
出向組の特徴としては、大体出世予備軍だってことだ。
私たち末端の人間に、その手のことは知らされないけど、出向組の言動とか見てると優秀だなぁってしみじみ感じることもある。
湯島君も仕事してる時は、大体そんな感じだった。プライベートで、寮の仲間内として話してても、楽しい人ってイメージあった。
頭の回転が速いからか、機知に飛んだコメントするからなのか? よく覚えてないけど、湯島君がいるのといないのとでは、会話の盛り上がりが違った気がする。
湯島君も私たちと話してる方が楽しいとか言って、カノジョさんとあまり連絡とらなくなってた。
何をもって楽しいって感じるかは、人それぞれだし、その時々で違うとも思う。たまたま湯島君にとっては、その当時は恋人よりも我々との方が波長が合ってたんだろう。
けど、だからって破局騒動しでかしてしまうのは問題だ。
いつだったかなー? ケータイ握り締めて真っ青になって呆然と立ってたの思い出す。
「女の子って、放置してると、寂しくてついフラッと行っちゃうこともあるよ?」
とか、ついぽろっと忠告しちゃったのは、実際に友達がそうなった話を聞いたからだ。といっても、フラッと行かれた方じゃなくて行った方なんだけど、まあ実際にない訳じゃない。
湯島君は仕事もできるし格好いい。先に仲間内になっちゃったから恋愛感情とか有り得ないけど、客観的に見てもモテそう。
そんなモテ男なカレシに1人、名古屋に出向されてその間放置されたら、カノジョとしては不安だったに違いない。
何度かこっちに連れて来てたこともあるけど、誰かが「見せろ、見せろ」って騒いだせいで、連れて来なくなったんじゃなかったかな。
女の子を泣かすなんて、サイテーなことだ。
同じ女子から言わせて貰うと、大減点。破局されかけて青ざめて、バカだねぇともちょっと思った。
けど、あの後再びこっちに連れて来てたの見て、ホッとしたのも事実だった。
湯島君、元気かな?
まだ、あの時のカノジョさんと一緒かな?
結婚したんだっけ? まだだっけ?
名古屋にまでは東京の噂も伝わってこないし、寮を出てからはみんなと等しく音信不通で、その辺のことは分からない。
「オレ、湯島に電話してみるわ」
そう言ってケータイを取り出した男子に、まだ連絡先分かるのかって、そっちの方に驚いた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 7