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prologue
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幸せとは、なんだろう。
『オメガが働きやすい会社no.1』
『オメガの管理職率34.2%!』
そんな謳い文句が溢れるようになった世の中で。
有名企業で役職を持ち、運命の番を婚約者に持つ俺。
幸せだと、理想だと、誰もがはやし立てる。
「おかえり、紘」
仕事から帰宅した俺を出迎えたのは、婚約者である黒澤俊樹だった。
「今日も遅かったね、お疲れ様」
彼はいつも、大した反応も返さない俺にただ穏やかに笑って話しかけてくる。
「次の発情期もちゃんと休みを取っておいたよ」
「どうせ一人で立てこもるだけだし、別にいい」
「何かあったら困るだろう」
どんなに無愛想にふるまおうが、突き放そうが、彼はいつも変わらない。
「…俺は大丈夫だから。黒澤こそどこか旅行にでも行って、疲れをとったらどうだ」
好意を無碍にするような発言にも、黒澤はやはり何を告げるでもなく。
ただ少し咎めるように、俺の手をとった。ただそれだけの刺激で、びりびりと背筋が痺れる。
ーーーそれが、俺には恐ろしい。
「…離してくれ」
「僕はただ、君を守りたいんだ」
そっと労わるように腕をさすられれば、たちまち脳髄が痺れて、足元がおぼつかなくなる。
全てをかき消すようなそれを、やはり俺は受け入れることができない。
静かに押しやった腕に、黒澤は微かに瞳を揺らした。
「……なぜ、君は俺の婚約者になってくれたんだ?」
聞かせるつもりが、あるのかないのか。
自室の扉を閉める直前に響いた声は、ひどくか細く。
自信なさげに、虚空を揺らした。
誰も彼もが騒ぎ立てる。
俺達は幸せな"番"だと。
ーーーー幸せとは、何なのだろうか。
その答えは、見つかりそうにない。
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