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日中落とした電源を灯したのは、日付が更新されて随分たってからだった。
『不在着信51件 メール13件』
発信元は、全て同じ。
そんな、常であれば異常とみられるような件数であっても、彼がαである、ましてや運命の番であることを考慮すれば、良識の範囲内だといえるだろう。
運命の番の間で発生する執着心は、それこそ野生の獣のそれと相違ないのだから。
『どこにいる』
『体調は大丈夫なのか』
『心配だ、これを見たらせめて連絡をしてほしい』
紡ぎあげられる言葉は少しも私欲には濡れておらず、ただこちらの身を案じていることが伝わってくる。
しかしそれに、『大河紘』としての感情が動くことは、やはりない。
ーーー今までも、これからも、きっとこの先も。
苦い罪悪感がこみ上げて、溜息ごとそれを嚥下する。
願わくば、これも全て彼の"本能"から来る物であればいい。
『暫く帰らないが、何も問題はないから、気にする必要はない』
礼も謝罪もない、そっけない文章。
それで愛想を尽かしてでもくれれば、何か変わるだろうか。
『送信完了しました』
その文字を見届けるや否や再度電源を切って、ホテルの床に投げ出した。
そうしてお約束のように、切なくあつくこみ上げる疼きを殺すため、傍にある錠剤をかみ砕く。
きっともう一生、あの腕に触れることはないだろう。
たとえこの苦痛を取り除くことができるのが黒沢だけだとしても。どれだけ本能が恋しいと叫び上げようと。
結局俺が夢に見るのは彼の背中だけだ。
「桃李…」
どれだけ名前を読んでみたところで、もうその呼びかけに答えてくれる温もりは、ここにはないのだけれど。
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