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桃李は、収容所のΩの神様になった。
桃李の言葉は多くのΩの涙をぬぐい、誇りを尊厳を守った。
踏みにじられた傷を癒すことはできずとも、完全につぶれ壊される未来を変えることができた。将来実験施設に送られることを思えばかえって残酷だったともいえるかもしれない。
それでも、結局そうはならなかった。
そうなる前に、他国の侵攻によって、狭い世界でえばり散らすα様の牙が抜かれたから。
そうして唐突に訪れた“自由”のなかで。
変わらず先陣を切って、桃李は皆を導いた。
『急にαと対等、なんて言われても信じられない…』
『何かの罠なんじゃ…』
『また襲われるかもしれない』
少数ながらも群れ固まり、戸惑うΩ。
『罠だっていいだろ。俺たちは確かに今、自由を手に入れた。これが罠だとするなら、それを後悔させてやれるように生きていこうぜ』
不安など欠片も見せず朗らかに笑うその顔は、春の雪解けのように、凍り付いた心を溶かしていく。
結論から言えば、その時の社会は“建前上”変わっただけだった。
αに与えられる刑罰なんて申し訳程度のもので、Ωに向く偏見は数え切れない。
それでも俺たちは数十年、その針の筵のような社会で身を寄せ合い生きてきた。
そうしていくうちに、ゆるやかながらも社会は変革を遂げ。
俺たちの生きやすい社会を作ることが、この国の本当の至上命題になった。
けれど一方で。
かつての仲間たちはどんどん離れていった。
――――αと幸せになるのだと。
この思いを止められないのだと、その腕に包まれることが最上の幸せなのだと、彼らは溶けた瞳で涙ながらに語った。
そうして気付けば、俺と桃李だけが残された。
正直それでも、俺は構わないと思っていた。仲間のことを大切に思う気持ちはあれど、あくまで原点は桃李。
桃李がそこにいれば、それでいい。
それがΩだとかαだとか、そんな垣根をとっぱらった俺の感情だった。
けれど、桃李はきっと違う。
俺たちをまとめたのも、導いたのも、ずっと彼だったから。
傷付いてはいないだろうかと、そっと見上げた先。
『とうとう二人か』
朗らかな声。
そこに、ネガティブな響きは一ミリも含まれていなかった。
『さて、どうする?引っ越しでもして冒険してみるか?』
勝気そうな瞳が細められ、成長して大人びた顔が、無邪気に破顔する。
あの頃、例える表現を持たなかった自分。
でも、今ならわかる。
ただまっすぐに自分の行く先を見据え立つその姿は、向日葵に似ていた。
「桃李となら、それもいいかもな」
そして、俺が彼にむけるこの感情が恋と呼ばれるものなのだと、俺はもう知っていた。
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