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結局俺たちはそのまま、“番らしい”行為に及ぶこともないまま逢瀬を重ね、婚約した。
実際黒澤はいい男で、本能云々を抜きにしても、一緒にいるのは居心地がよかった。
だから、悪くないと思ってしまった。
彼は俺の嫌なことはしようとしなかったし、こちらを理解しようと努めてくれた。
だから、彼に恋はできなくとも、人生のパートナーにならなれるかもしれないと。彼と結婚することでよりよい未来を築くことができるなら、彼と共に生きていくのも悪くないかもしれない、と。
だから、自分が先に踏み出して、桃李の背を押そうと。
その考えが間違いだったことは、桃李が黒澤を見たときにすぐに分かった。
「お、ひろ!やっときた、話って……」
「おや、君は……」
「あん、た……なんで」
その瞳の揺れに、嫌な予感が走る。もしかしたら。
黒澤の袖を引き、何かを言うのを妨げようにももう遅い。
「僕は、紘の婚約者だ。彼が紹介したい人がいると言ってくれてね。それがまさか君だったとは」
よくこのカフェにいたよね、何度か目があった記憶がある。
その言葉で、疑惑は確信に変わった。
そんなことがあっていいだろうか。
一体、何万いや、何億分の一の確率だろう。
「……こん、やく……?」
冷え切った声が空気を揺らし、絶望に染まった目が、俺だけを映す。
「ウソ、だよな……?」
零された空笑いに返す言葉など、ない。
「……」
「はは、は。まじかよ。いつの間に。全然気づかなかった。何も言ってなかったじゃん」
「……とう、り」
「一言も相談もしてくれなかったな。まぁそっか、α様と過ごす未来を考えたら、俺は生涯だったよな」
いつだってポジティブな言葉をくれた桃李に、こんなことを言わせているのは自分だ。
その事実が、何よりも自分を打ちのめす。
「ちが」
ぱしん。
それほど強い力ではなかったのに、はねのけられた腕が鈍く痛む。
胸が切り付けられたように痛んで、ひゅ、と喉の奥が鳴った。
「裏切者!!!!!!」
今まで一度だって向けられなかった表情。
そこに浮かぶのは、憎しみと絶望。
それ以上言葉を紡ぐこともできないまま、ただ薄く開けた口を持て余す。
「ひろのことだけは、信じてたのに」
そうして、情けなくもタついている間に、桃李は静かにそう零して、店を出ていった。
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