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番契約
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「ミツカ?ミツカ、どうしたんだ?Ωにはなりたくなかったのか?」
違う。そんな簡単なことじゃない。
何度も首を横に振る俺を、慰めるように彰さんは撫でてくれた。
「そうだ。君はΩになりたいと言っていたと、院長から聞いている。あぁ、セックスが怖かったのか?」
院長はそんなことまで彰さんに話していたのか。だから、この実験に選ばれたんだ。
違うのに。俺はΩになりたかったんじゃない!彰さんの番のΩになりたかったんだ!
「違う?あぁ、そうか。うなじを噛んだ傷が痛むのか?」
!
そうだ。
彰さんは、俺のうなじを噛んだ。
とっさに俺は自分のうなじを押える。手で触っても分かる歯形の痕。
うなじを噛む行為は、αとΩの番契約である。αにうなじを噛まれたΩは、そのαを番として、そのαにしか発情しなくなる。発情期が落ち着き、色々な人を誘うフェロモンを出すこともなく、精神的にも落ち着いて過ごすことができる……という素晴らしい契約である。
そう、番が、破棄されない限りは。
番の破棄はα側からのみ行うことができる。番を破棄されたり、αに先立たれたΩは、その先長く生きていくことはできない。発情期が来ても、それを治めてくれる番がいない。薬も効果はなく、永遠にその孤独感が埋められることもない。Ωは精神を摩耗して、自分から命を絶つか、衰弱死する。
それが、番を破棄されたΩの運命だ。
彰さんには、正式な番がいるはずだ。だから、うなじを噛まれたところで俺は番にはなれない。
俺のフェロモンに彰さんはおかしくなっていただけで、俺と番うことなどありえないのだ。
ならば、俺に待つのは?
発情期が来ても、αとセックスしても満たされることのない心と体。そうだ、これからの俺は、彰さん以外の人とセックスして、子どもを作って、セックスして、子どもを産んで、それを繰り返して狂っていくんだ。
狂って、死ぬ。
自分の運命が見えて、ぞっとした。
「彰さんは、どうして俺のうなじを噛んだりしたの……?」
番にはなれないのに。彰さんには、番がいるのに。
再びこぼれそうになる涙を必死にこらえてそう尋ねると、彰さんは不思議そうに首をかしげた。
「さっきも言っただろう?昔からずっと、ミツカは私のことが好きだった。だからだ」
だから?だから何だと言うんだ。αに惚れた可哀想なβだって哀れんだのか?
「好きだよ。あぁ、好きだったさ!でも、こんなに酷い人だとは思わなかった!」
「ミツカ?」
「ずっと、ずっと、俺は彰さんに憧れてた。彰さんと離れたくなくて、この研究所に行くことを選んだんだ。ただ、研究対象のβとして近くにいられれば良かった。それだけだったのに。どうして?どうしてこんなことしたの?うなじを噛んでも、俺は彰さんの番になんてなれないのに!これから、この噛み痕だけを大切にして、たくさんのαに犯されろって言うの!?」
「ミツカ。待ってくれ。どうして私と君が番になれないんだ?」
そんな残酷で、当たり前のことを彰さんから言われるとは思わなくて。それをあえて俺の口から言わせることに腹が立って、俺は思い切り彰さんを睨みつけた。
「彰さんには、あの綺麗なΩがいるじゃないか!俺みたいな、薬でΩになったような不完全なやつじゃなくて!あの!ちゃんとしたΩが?」
つらくてつらくて、目の前にある彰さんの胸を思い切り叩く。
叩いていたはず手はいつの間にか力が抜けて、彰さんに抱き着くような形になってしまったけれど。
「どうして?どうしてこんな酷いことするの?俺に同情した?だから、Ωになってたくさんのαにヤられる前に、少しでもいい思いさせてやろうとでも思ったの?」
もう涙も止められなくて、彰さんが拒絶しないのをいいことに、抱き着いたまま思い切り泣きじゃくる。
親もいない、施設の職員を一人占めすることなんてできなかった俺にとって、こうして誰かの胸の中で泣くのは初めてのことだった。
苦しくて、悲しくて。
そんな時、そっと彰さんの手が俺の頭を撫でた。
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